<社説>国旗・国歌要請 大学自治に反する行為だ


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 大学の自治に反する行為だ。税金で運営されている国立大でも、政府がむやみに大学の自治に干渉することがあってはならない。

 下村博文文部科学相が、入学式などでの国旗掲揚と国歌斉唱実施を国立大学長に要請した。大学は国旗・国歌指導を明記した学習指導要領の適用外である。
 国立大の国旗・国歌実施を議論した4月の参院予算委員会で、安倍晋三首相は「税金によって賄われていることに鑑みれば、新教育基本法の方針にのっとって正しく実施されるべきではないか」と答えた。下村文科相も「適切な対応が取られるよう要請する」と述べた。
 下村文科相は「最終的に各大学が判断すること」と述べてはいる。しかし、運営費交付金の重点配分など国立大改革を議論する中での要請である。言葉通りに受け取ることはできない。
 憲法で定められた学問の自由と、それを保障する大学の自治は最大限尊重されなければならない。それは歴史的経験に基づくものだ。
 京都大学の研究者の自由主義思想を弾圧した1933年の「滝川事件」は、学問の自由と大学の自治を問う歴史的な出来事であった。戦前の思想統制の反省を踏まえ、大学は学問の自由と自治を追求している。税金による大学運営を理由に時の政権が大学自治を揺さぶることがあってはならない。
 安倍首相の答弁や下村文科相の要請は憲法が保障する価値を軽視するものである。滋賀大の佐和隆光学長は「われわれは納税者に対して教育、研究で貢献することが責務だ」と述べた。大学の自治を重視した反論で、納得できる。
 政府が国旗・国歌を国立大に強要することになれば、大きな混乱が起きるであろう。沖縄では1980年代、県教育委員会が国旗・国歌実施を公立学校に厳しく指導し、児童生徒を巻き込む混乱が生じた。
 沖縄戦の経験から、県民は国旗・国歌に複雑な感情を抱いている。国旗国歌法案を審議する衆院内閣委員会の沖縄公聴会が99年に開かれた際、法制化に賛成する証人も「押し付けには反対」と陳述した。
 国旗・国歌にどう向き合うかは、思想・信条の自由に関わる問題であり、押し付けは許されない。運営費交付金の重点配分を盾に国立大に実施を強要するなど、もっての外である。