<社説>黒人教会で銃乱射 偏見、憎悪なき世界目指せ


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 米南部の黒人教会で銃乱射事件が起き、黒人9人が犠牲になった。容疑者は21歳の白人の男で、人種差別的な主張をしながら銃を乱射している。米連邦捜査局(FBI)は憎悪犯罪(ヘイトクライム)として捜査を始めている。人種差別の憎悪を決して許してはいけない。

 憎悪犯罪とは人種、民族、宗教、性的嗜好(しこう)などで個人や集団への偏見や憎悪を理由に引き起こされる犯罪を指す。容疑者の男は黒人についてネット上で「愚かで暴力的」「人種隔離は白人を守るために必要」などと書き、フェイスブックにはアパルトヘイト(人種隔離)政策下の南アフリカ国旗を縫い付けた上着姿の写真を掲載していた。白人の優位性を主張する意図で事件を起こした可能性が高い。
 事件が起きたサウスカロライナ州チャールストンの通称マザー・エマニュエル教会は1820年代、奴隷解放を目指す蜂起計画が練られた場所だ。情報が漏れて黒人30人以上が処刑され、白人は教会に火を放った。1962年には公民権運動の先頭に立ったキング牧師がこの教会で演説をしている。黒人解放運動の象徴的な場所を意図的に狙ったとみるのが自然だ。
 地元の裁判所で開かれた容疑者の審理の場で、多くの遺族が罪を許すべきだと陳述した。米国では白人警官による黒人射殺が続く昨年以降、報復で黒人が白人警官を射殺するなど人種対立が続いている。遺族は敬虔(けいけん)なキリスト教徒として、憎悪犯罪の連鎖を断つには罪を許す以外にないとの信念があったようだ。遺族の願いのように、復讐の連鎖は何としても避けなければならない。
 若者である容疑者がなぜ銃を所持していたのか。21歳の誕生日を迎えた4月に、父親から銃を買い与えられたからだという。米国では一般市民が銃を簡単に入手できる。こうした銃社会こそが悲惨な事件を引き起こす要因になっていることは疑いようがない。
 オバマ米大統領は事件後、銃規制の必要性を訴えた。オバマ氏の民主党は銃規制に前向きだが、上下両院で多数を占める共和党は規制に反対の立場だ。米国社会で銃犯罪を繰り返さないためにも、銃規制が必要なのは言うまでもない。
 今回の事件を踏まえ、人種差別などの偏見や憎悪による犯罪をなくすための方策を共に考え、米国の銃社会を見直す契機にしたい。