<社説>「平和の礎」20年 「命どぅ宝」さらに世界発信を


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 「平和の礎」は、1995年6月23日に除幕された。ことしでちょうど20年を迎える。

 第2次世界大戦で沖縄は住民を巻き込んだ地上戦の場となり、多くの人命と財産を失った。礎には国籍、軍人、民間人を問わず、沖縄戦で亡くなった人々の名が刻銘されている。そのことは一人一人の命が何物にも代え難く重いことを示している。
 いかなる大義があろうと、戦争は残酷な行為であることを礎は語り掛けている。県民の普遍的な思い「命どぅ宝」(命こそ宝)の象徴であり、沖縄戦で亡くなった人々の声なき声を聴く場所だ。
 当初の刻銘数は23万4183人だった。その後、毎年、追加刻銘を重ね、ことし6月現在で24万1336人の名前が刻まれている。そのうち約62%が県出身者だ。
 戦後70年、戦争体験者、証言者の高齢化、減少で追加刻銘の確認作業は難しくなっている。しかし、沖縄戦の実相を後世に伝えるために、私たちは全ての戦没者の刻銘に引き続き努めていかなければならない。
 20年という節目に、県内はもとより他府県出身者や外国出身者のデータをしっかり再点検する必要もあろう。収集した戦没者データを重層化するなど、戦争の実態を示す新たな取り組みの検討も必要だ。
 また、軍夫や「従軍慰安婦」として強制連行された韓国、北朝鮮出身の多くの犠牲者の刻銘については、両国の遺族や関係者らの礎への理解と共感を得る取り組みを丁寧に進め、追加刻銘を加速させたい。
 沖縄戦を過去の歴史の一こまにしておくべきではない。「沖縄戦」「米軍統治」「復帰」という歴史の節目、転換点と「現在」を線として結び、将来の平和創造につなげていかなければならない。
 積極的平和主義の名の下、安倍政権が「戦争立法」化を進めるいま、礎に刻銘された戦争犠牲者一人一人の声に私たちが謙虚に耳を傾けるべき時ではないか。併せて世界中で紛争が絶えないいまだからこそ、世界に向けて礎の精神「命どぅ宝」をさらに発信すべきだ。
 世界の恒久平和の実現は、全人類の最大の願いだ。相互の信頼を基盤にした共存共栄の国際社会構築のため、私たちは礎の存在を通して、愚直に非暴力、反戦平和を訴え続けなければならない。