<社説>出生前診断 十分な理解と情報提供を


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 生まれる前に胎児の病気や染色体疾患の有無を調べる出生前診断が増えている。検査についての十分な情報や理解が欠かせない。

 国立成育医療研究センター(東京)の左合治彦周産期・母性診療センター長らの調査によると、妊婦から採血して染色体疾患の確率を算出する母体血清マーカー検査は2013年で約2万6400件となり、過去最多となった。
 高精度の「新出生前診断」として13年に導入された母体血胎児染色体検査は最初の1年で7740人、2年目は約1万人が受けた。左合氏らの調査では、陽性かどうかの確定診断をする羊水検査も13年には過去最多の約2万600件が実施された。
 出生前診断が広がる背景には、高齢妊娠・出産の増加がある。13年の人口動態統計によると、35歳以上での出産割合は全体の27%を占めるが、35歳以上の妊娠ではダウン症などの染色体異常のリスクが増えるとされる。
 妊婦がおなかの子の健康を知りたいと思うのは自然なことだ。だが採血だけで結果が分かる検査には簡便さの半面、不特定多数の妊婦が受ける「マス・スクリーニング」(先天性代謝異常等検査)につながりかねないとの懸念が消えない。命の選別を促すような社会であってはならない。
 産科医らによると、「親から勧められた」「オプションで受けられる」といった理由で出生前検査を申し込む妊婦らもいる。おなかに針を刺す羊水検査には流産リスクもあるとされるが、出生前検査についてあらかじめ十分理解して受ける人ばかりではないという。
 一方、厚生労働省研究班の調査では、中絶につながることがある点などの問題を説明している割合は、マーカー検査実施の診療所で4割を下回り、羊水検査を実施する病院でも6割強にとどまる。
 妊婦と家族に応対する専門資格の認定遺伝カウンセラーは昨年末で全国に161人しかいない。正確な情報に基づく妊婦の意思決定を支えるためのカウンセリング体制は不十分だ。
 出生前診断について専門家は「赤ちゃんを選別するのが目的ではない。安心して産むことをサポートするためのもの」(臨床遺伝専門医の千代豪昭氏)と指摘する。
 検査を受ける人たちがその内容や目的を十分理解することが肝要だ。検査後のフォロー体制の確立も必要である。