<社説>TPP交渉 危険な妥結は許されない


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 米議会上院で大統領に通商交渉の権限を一任する「貿易促進権限(TPA)法案」が可決された。その結果、TPP交渉は7月中の閣僚会合での大筋合意へ向けて大きく動きだすとみられる。

 しかし、交渉の過程で農業分野の重要5品目の問題をはじめ、食品添加物表示の撤廃の懸念や、健康保険制度は壊滅しないかと指摘されてきた。これらの課題が払拭(ふっしょく)されることなく、合意を急ぐことは許されない。
 政府は2013年3月、TPP参加の影響を公表している。追加対策を講じなければ、10年後に農林水産物の国内生産額約7兆1千億円のうち3兆円が失われると試算した。自民党は総選挙で「聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対」との公約を掲げ、国会は13年、5品目を「聖域」と位置付けて「守られない場合は交渉からの脱退も辞さない」と決議した。
 重要5品目の中に牛・豚肉、甘味資源作物が含まれる。県内の農家にも直接影響する。当然、公約と国会決議は順守されなければならない。
 国民生活や農業に重大な影響を及ぼすにもかかわらず、TPP交渉の内容は非公開だ。一部の交渉担当者だけしか知らないまま交渉が進む状況は、民主主義の原則を軽視している。13年の国会決議は「交渉で収集した情報は国会に速やかに報告するとともに、国民へ十分な情報提供」も求めている。情報開示をして国民的議論を深めるべきだ。
 TPPは、農産物だけの問題ではない。ルールづくりの分野でもグローバル企業に有利だと指摘されている。投資家保護の観点から投資家と国家の紛争解決(ISDS)条項が盛り込まれれば、司法権、国家主権が侵害される恐れがあるからだ。さらに米国は新薬メーカーに有利なように、新薬開発データをなるべく長い期間保護しようとしている。これでは安価なジェネリック医薬品(後発薬)の普及が遅れる。
 食の安全面でも米国企業に配慮し、日本に輸入される遺伝子組み換え食品の表示規制を緩和しようという問題もある。
 安倍晋三首相はTPA法案可決を受けて「米国とともにリーダーシップを発揮して早期の妥結を目指していきたい」と述べた。しかし民主主義、国家主権、国民の安全を損ねる危険を冒すような妥結は認められない。