<社説>報道圧力で処分 安倍首相の責任どう示す


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 無知と無責任に巨大与党のおごりが加わった不遜な発言のオンパレードだった。トカゲのしっぽ切りで済ますことは許されない。幕引きには到底ならない。

 若手所属議員が開いた勉強会で、講師による「沖縄の2紙はつぶさないといけない」という発言に同調し、言論封殺を図る意見が噴き出した問題で、自民党は会の代表の木原稔青年局長を更迭し、3議員を厳重注意処分にした。
 世論の反発が急速に強まっていることに焦りを募らせ、反対が強い安全保障法制の審議への影響を抑えるための党利党略第一の即決処分であることは間違いない。
 谷垣禎一幹事長は28日のNHK番組で「大変申し訳なかった。沖縄の問題に取り組んできた歴史に反する議論だった」と謝罪したが、自民党総裁である安倍晋三首相は国会で人ごとのように謝罪を拒んでいた。首相自身がどう責任に言及し、県民に対してけじめをつけるかが次の焦点になっている。
 安保法制や名護市辺野古への新基地建設をめぐり、出席議員は国民の反発が高まる状況に業を煮やし、報道がその要因と決め付けた。
 その上で「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番。経団連に働き掛けてほしい」などと発言していた。
 言論、表現、報道の自由は民主主義の根幹を成す。権力を監視、検証して批判するのは報道機関の当然の責務だ。仲間内だけの会合で居丈高に「懲らしめる」と発言する感覚は傲慢(ごうまん)そのものだ。
 講師だった作家の百田尚樹氏による「2紙つぶさないと-」発言を引き出したのが長尾敬議員だ。
 長尾氏は琉球新報、沖縄タイムスの2紙を名指しし、「左翼勢力に乗っ取られている。その牙城の中でゆがんだ(沖縄の)世論を正しい方向に持っていく」などと述べた。虚偽に基づく悪質なレッテル貼りは無知と背中合わせで、国会議員の言動とはおよそ思えない。
 沖縄戦を起点に米軍基地の過重な負担が続く中、県民は基地被害の除去、改善を訴えている。基地に厳しい世論の源流を学ぶこともなく、沖縄の新聞がミスリードしていると言い募るのは県民への侮辱に等しい。
 事ここに至っては、佐藤優氏が指摘する「沖縄蔑視発言事件」の性格を帯びている。「県民に丁寧に説明する」と繰り返してきた安倍首相の責任はやはり重い。