<社説>国土交通白書 「移住推進」は地方の視点で


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 太田昭宏国土交通相は2014年度国土交通白書を閣議に提出した。白書は人口減少のペースを緩めるため、東京一極集中を是正し、子育てと仕事が両立しやすい地方への移住を促すべきだと強調している。

 東京圏への人口流出は地方の活力を失わせている。東京一極集中の是正は地方も求めるところだ。だが、政府の進める地方移住は地方の意向を反映したものといえるだろうか。
 民間の日本創成会議が今月、東京圏の75歳以上の高齢者が今後10年間で急増するとして地方移住の提言を発表した際、菅義偉官房長官が高齢者移住を推進する方針を示したのがいい例だ。東京の課題解決が先にあるのではないか。
 地方の視点で取り組むことを柱に据えなければ、人口減少問題の解決はおぼつかない。政府はその視点で取り組むべきだ。
 白書は、福井県や島根県などで出生率や女性の就業率が高いのは3世代同居や保育所への入りやすさ、職住接近が影響していると考えられると分析。地方移住を実現するため、地方に雇用機会の拡大などを通じ、さらに魅力ある地域をつくることが重要だとし、地方の取り組み強化を求めている。
 女性が離職せずに出産・子育てできる環境に恵まれている地方に、東京から移住することは双方にとってメリットがある。
 だが、事は容易ではない。全ての地方が福井県などのような状況にはない。政府に言われるまでもなく、地方は魅力ある地域づくりに取り組んでいるが、成果を挙げている地方は限られよう。
 待機児童の解消などを目指した「子ども・子育て支援新制度」も4月に始まったばりである。そのような状況の中、地方移住を推進しても地方にとっては負担が増え、課題解決のハードルがさらに高くなる懸念がある。
 一方で、地方移住の推進は地方の活力を取り戻す好機と捉える必要もある。
 小売店や飲食店、医療機関、バス事業などは一定の人口規模がなければ縮小される。人口が減少すれば税収が下がり、行政サービスが低下することも考えられる。そうなれば、地方は衰退していく。
 各自治体はこれまで以上に住みよい地域づくりに知恵を絞り、力を入れてほしい。人口減に歯止めをかけることで、地域の活力を取り戻したい。