<社説>困窮者自立支援 対象者の立場で後押しを


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 4月に始まった生活困窮者自立支援制度で、自治体の45%は任意事業を一つも実施していないことが分かった。

 義務事業に任意事業を組み合わせることで、包括的な支援態勢は構築される。対象者の立場になって任意事業を積極的に実施し、自立を強く後押ししたい。
 義務事業は相談者一人一人の状況に応じた支援プラン作成に当たる「相談窓口の設置」と、離職で住居を失った人や失う恐れが高い人への「家賃相当額の支給」の二つである。
 任意事業は(1)子どもの学習支援(2)生活習慣の立て直しから就労までを支援する「就労準備支援」(3)宿泊場所や衣食を提供する「一時生活支援」(4)家計管理を助ける「家計相談支援」-の四つある。
 義務事業は生活困窮から抜け出す出発点であり、具体的な支援に結び付けるのが任意事業といえよう。それを一つも実施しない自治体が半数近くあるということは、支援が十分行き渡っていないということになる。
 社会に出ることに不安を持つ困窮者もおり、半年から1年のプログラムで基礎能力を身に付けてもらう「就労準備支援」は不可欠だ。生活困窮世帯の子どもの「学習支援」も欠かせない。
 ところが、全事業を実施する自治体は全体の4%にすぎない。任意事業を実施することで支援の輪を広げていく必要がある。
 任意事業の未実施が多い背景には自治体負担の違いがある。義務事業では4分の1だが、任意事業では3分の1に負担が跳ね上がる。必要性を認識しながらも、予算面から任意事業実施を見送らざるを得ない自治体も多いだろう。国は自治体負担率を見直すべきである。
 地域のニーズを把握できていないことも、自治体が任意事業の実施に踏み出せない要因だ。ニーズを的確につかむためには対象者に相談に来てもらう必要がある。支援を必要とする人への積極的な働き掛けに力を入れてほしい。
 那覇市は路上生活者を訪問したり、公共料金を滞納している人に案内を配布したりして支援制度の利用を呼び掛けている。その取り組みを全国に広げたい。
 国民の最低限の生活を保障することは国の義務である。必要な人に必要な支援をすることで、支援制度は生活保護に至る手前の新たなセーフティーネットになり得る。