<社説>農業と地域再生 「沖縄の宝」にこだわろう


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 地産地消が叫ばれて久しいが、ややもすると空疎な精神論のように受け取られがちだ。だがそれは、真に効果的な地域振興策である。

 それをあらためて痛感させられた提言だった。シンポジウム「沖縄農業の未来と地域再生」で、登壇者は、地域農産物とその加工品を尊重することの重要性を異口同音に説いた。豊富な実例とデータに裏付けられた論は実に説得力があった。
 沖縄にはここにしかない多くの農水畜産物があり、食文化がある。足元を深く掘ろう。登壇者の緒方大造・日本農業新聞論説委員が述べたように、「ないもの探しではなく、今ある地域の宝を探し」、こだわり抜いていきたい。
 基調講演した藻谷浩介氏の国際収支比較が興味深かった。日本は原油を買うから中東に対して赤字なのは当然だが、イタリアやフランスに対しても赤字である。ワインやチーズなど高価な農産加工品を買うからだとのこと。その地に産する原材料にこだわり、その地での加工がブランドになっているからこそ高価なのだ。まさに地域づくりの見本と蒙(もう)を啓(ひら)かされた。
 だからこその「地域の宝探し」なのである。緒方氏が述べた通り、国産志向、郷土食志向は非常に高まっている。アグーや石垣牛の競争力を見れば明らかだ。この追い風を生かさない手はない。
 小谷あゆみ氏はカンダバー(イモの葉)の県外持ち出し禁止は逆に好機だと述べた。「沖縄でしか食べられない」をうたい文句にできるし、それを食する体験そのものを売ることができるからだ。
 しかもこうした島野菜は健康にもつながる。伝統食を続けていたかつての沖縄の長寿がそれを証明している。経済効果だけでなく県民自身の健康をもたらす宝なのだ。島野菜の栽培・消費の振興を、かつてない大胆さで進めたい。
 一方で沖縄は地元産品を軽視しているとの耳の痛い指摘もあった。沖縄で消費するヤギ肉の大半が輸入で、県産は23%しかない。
 イタリアのパスタやチーズは、その地域の原材料を使わないとその食を再現できないという物語を構築している。われわれは足元の宝を見逃していなかっただろうか。
 明るい兆しもある。沖縄は新規就農者、とりわけ40歳以下が増えているという。遊休農地も減っているそうだ。「生命産業」たる農の復興の兆しを大切にしたい。