<社説>安保法制参考人会 やはり廃案にすべきだ


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 沖縄の歴史を鑑みても、現在の環境に照らしても、危険極まると言わざるを得ない。国会審議中の安全保障法制のことである。

 那覇市で開かれた衆院平和安全法制特別委参考人会で、5人の参考人のうち3人から反対や疑念が相次ぎ、賛成は2人にとどまった。
 政府・与党は今月中旬の衆院での強行採決を見込んでいるとされる。参考人会開催を「丁寧な審議をした」と装う材料にするつもりではないか。
 だが各種の全国世論調査を見ても、法案に反対か、少なくとも今国会での成立に慎重な意見が過半数を占める例が大半だ。参考人会でもそれがあらためて示された形である。強行採決の「環境」が整ったとは到底言えない。やはりこの法案は廃案にすべきだ。
 参考人会では、尖閣の中国公船領海侵入を挙げ「力による現状変更を許さないとしっかり示すことが大切だ」(中山義隆石垣市長)と法案に賛同する意見もあった。
 だが懸念の声も相次いだ。「(新たな法制で集団的自衛権が行使され)辺野古の新基地がグローバルに使われると、(今度は)世界中から沖縄が悪魔の島と呼ばれる」(稲嶺進名護市長)との意見も出た。「日米の軍事一体化が進むと沖縄の米軍基地は一層固定化する」との懸念も示された。それは沖縄にとって悪夢でしかない。
 興味深かったのは「トゥキディデスのわな」をめぐる議論だ。既存の大国は台頭する大国に脅威を感じる。そんな競合する二国の疑心は戦争を招くということを指す。
 グレアム・アリソン元米国防次官補の論文によると、過去500年にあったそうした事例15件のうち11件で実際に戦争が起きたという。アリソンは、台頭する中国を日本が恐れる結果、局地戦が起き、米国が巻き込まれれば世界大戦に発展しかねないと警鐘を鳴らす。
 米国は南シナ海での米軍と自衛隊の共同パトロールを望んでいる。参考人会で識者が指摘したように、戦後の日本はかつて米国の戦争に反対したことは一度もない。米国の要求に付き従うばかりだった過去を考えると、南シナ海での日中衝突のシナリオは現実味を帯びてくる。
 軍事力への傾斜は緊張を高め、戦争を招く。戦争となれば「軍隊は住民を守らない」というのが沖縄戦の教訓だ。軍事力への傾斜は抑止力どころか惨事をもたらすというのが歴史的事実なのである。