<社説>無戸籍児の就学 実態把握と支援を急げ


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 子どもに何ら責任がないのに、戸籍がないため社会的な不利益を受けている。このような事態は直ちに改めなければならない。

 文部科学省は、何らかの事情で出生届が出されずに無戸籍となった子どものうち、義務教育段階の142人を対象とした初の就学状況調査結果を発表した。141人が就学しているものの、34・8%に当たる49人が財政的な就学援助を受けていた。1人は5年にわたり未就学だった。
 無戸籍児を取り巻く厳しい生活環境が明らかになった。しかも、今回の調査の対象となったのは、法務省が把握している子どもに限られている。無戸籍児を支援する関係者は「数字は氷山の一角。支えが必要な子どもはまだいるはずだ」と指摘している。
 住民票の発行や児童福祉サービスを受けるため、親が役所を訪れる際、子どもの無戸籍が発覚する事例が多いという。つまり、親が役所に行かなければ、生活苦にあえぎ、学校に通えない無戸籍児が放置される恐れがあるのだ。
 今調査では、小中学校に通っていても、掛け算ができないなど学習上の課題を抱えている子どももいることが分かった。家庭においても身体的虐待やネグレクト(育児放棄)に苦しむ子がいることも判明した。無戸籍児がいる家庭環境の厳しさを反映している。
 実態把握を急がなければならない。住民基本台帳や児童福祉、学校教育など戸籍以外の業務の中で無戸籍児の把握に努める必要がある。その上で小中学校や児童相談所などの連携で細かい支援に取り組みたい。無戸籍児が学ぶ機会を逸したまま成長し、成人後も社会の中で経済的に苦しむという負の連鎖が生じるのは許されない。
 無戸籍児をめぐる問題の根本には「離婚から300日以内に生まれた子は前夫の子と推定」という民法規定があると指摘されている。前夫の子として扱われるのを避けるため出生届を出さないのだ。
 法務省によると、子どもが無戸籍となる原因の7割がこの規定にあるという。戸籍がないため、子どもが不利益を被るような事態をいつまでも見過ごすわけにはいかない。
 この規定の是非は裁判で争われてきた。DNA鑑定が普及する中、この規定を設ける合理性を疑問視する専門家の見解もある。無戸籍児を増やさぬためにも、法改定を検討すべき時期に来ている。