<社説>安保法制審議 成立ではなく廃案しかない


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 集団的自衛権の行使を可能にする安保関連法案について、与党は15日の衆院平和安全法制特別委員会で採決し、16日の衆院本会議で可決・通過させる考えだ。審議が10日で100時間を超え、十分に審議が尽くされたと判断しているようだ。国民の理解が十分に広がらない中、多くの憲法学者が「違憲」と批判している法案を強行採決することなど許されない。

 安倍政権が集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更を閣議決定した昨年7月から1年間で、全国の地方議会が国会に提出した安全保障政策関連の意見書は少なくとも469件あり、うち463件が閣議決定の撤回や安保関連法案の廃案や慎重審議を求めている。これだけ地方議会から政府の姿勢に懸念が示されているのに、なぜ採決を急ぐのか。
 与党が16日の衆院通過を目指すのには理由がある。今国会での成立を確実にするよう「60日ルール」を使う余地を残すためのようだ。衆院が可決した法案を参院が受け取って、60日以内に採決されない場合は「否決された」と見なすことができる。その上で衆院で3分の2以上の賛成による再可決をすれば成立することができるのだ。
 自民が単独過半数に足りない参院で審議が滞って国会最終日までに再可決できなければ時間切れで廃案となるため、衆院通過を急ぐ必要がある。参院の存在を否定する再可決などもっての外だ。
 安倍晋三首相は自民党のネット番組で法案への理解を深めるために麻生太郎副総理兼財務相を「アソウさん」として登場させ「不良」に殴られたという例えを持ち出し「私もアソウさんを守る。これは今度の法制でできる」と述べている。あまりに国民をばかにしている。こうした例えをしなければ理解されないと思っていることこそ、法案が国民に浸透していないことを自ら示している証拠ではないか。
 審議では集団的自衛権の行使要件となる「存立危機事態」の定義の曖昧さも浮き彫りになっている。10日の委員会で安倍首相は朝鮮半島有事の際に集団的自衛権を行使する条件について「ミサイル警戒中や、邦人輸送中の米艦が攻撃される明白な危険がある時点で認定し得る」との見解を示し、従来説明より条件を緩めている。政府に行使要件の定義が存在していないのは明らかだ。欠陥だらけの法案は、成立ではなく廃案しか進む道はない。