<社説>安保法案衆院可決 国民の危機感無視するな


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 議場における数の力で民主主義を破壊する蛮行だ。国の将来を憂い、危機感を募らせる国民を無視することは断じて許されない。

 安全保障関連法案が衆院本会議で可決された。野党5党は採決に加わらなかった。前日の平和安全法制特別委員会での強行採決に続く異常事態だ。法案が国民の支持を得ていないことの証左である。
 最近の各報道機関の世論調査を見ると、法案に「反対」する声が多数を占めている。安倍内閣の支持率は「支持しない」が「支持する」を上回るか、拮抗(きっこう)するようになった。支持率の低落傾向が顕著になっている。
 国民の意思は明確だ。安全保障関連法案の成立を拒否しているのであり、それを強行する安倍内閣にノーを突き付けているのだ。
 安倍晋三首相自身も特別委員会の中で「国民の理解が十分に得られていない」と述べ、国民の反対の多さを認めた。その自覚があるならば、当然採決を見送るべきであった。安倍首相は「理解が進むよう努力を重ねていきたい」とも述べたが、順序が逆だ。法案が可決成立してからでは遅いのである。
 国民は安保関連法案の本質を見抜き、平和憲法をなし崩しにする安倍政権に異議を申し立てているのである。国民世論と真正面から向き合うことなく、法案成立を強行する行為は民主主義にもとる。国会周辺のデモに代表される国民の声を軽んじてはならない。
 与党は「審議は尽くした」と説明するが、到底納得できない。確かに特別委員会は審議に116時間を費やしたが、国民の疑問に答えるような議論の深まりはない。
 集団的自衛権行使をめぐる憲法論争は決着していない。行使要件となる「存立危機」の定義も不明確だ。自衛隊員のリスクについても安倍内閣と野党の主張はかみ合わなかった。採決に踏み切るような環境にはなかったのだ。
 舞台は参議院に移る。憲法問題などを論点に徹底審議すべきだ。国民を置き去りにし、強行採決をするような行為を繰り返してはならない。「60日ルール」による逃げ切りなど、もっての外だ。
 戦後70年の間に築かれた「国のかたち」を強引に葬ろうとする安倍内閣と現国会に、私たちは国の将来の全てを委ねてはいない。国民が拒否する安保関連法案は廃案にすべきだ。さもなくば衆議院を解散し、国民の信を問うべきだ。