<社説>岩手いじめ自殺 なぜ救えなかったのか


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 追い詰められ、絶望感にさいなまれていく心の叫びを必死に表していたのであろう。しかし、そのSOSが届くことはなかった。

 岩手県矢巾町で中学2年生の村松亮君が電車に飛び込み、自ら命を絶った。担任教師とやりとりしていた生活記録ノートには、同級生からいじめを受けていたことを色濃くにじませる記述が多く残されていた。
 「づ(ず)っと暴力、ずっとずっとずっと悪口」「なぐられたり、けられたり、首しめられたり」
 さらに5月と6月のアンケートでも「いじめられている」と書いていた。ノートの文言はさらに切迫し、「ついに限界になりました。もう耐えられません」「もう市(死)ぬ場所はきまってるんですけどね」など、自ら命を絶つことをほのめかしていた。
 なぜこのシグナルが生かされず、村松君を救えなかったのか。
 生活記録ノートは学校での日ごろの様子を生徒の言葉で書き残す。いじめや心身の異変などをできるだけ早く把握し、教師と学校が着実に対応策を取る狙いがある。
 自殺を示唆するまで深刻の度を増していたにもかかわらず、担任教師が抱え込む形で校長や他の教師と共有されることはなかった。
 学校側、町教育委員会の対応に手落ちはなかったか。徹底的な検証が欠かせない。
 滋賀県大津市の中学生いじめ自殺事件を受け、2013年9月にいじめ防止対策推進法が施行された。各学校には(1)基本方針策定(2)複数の教職員らで構成する対策組織の設置(3)定期的なアンケートの実施-などが義務付けられた。
 この中学校も法に沿って態勢を整えていたが、何度も発せられたSOSは見過ごされた。いくつもの「なぜ」を解明し、再発防止につなげないといけない。村松君の死を無駄にしてはならない。
 文部科学省によると、2013年度にいじめによって生命・身体にかかわる「重大事態」は181件、自殺は9件もあった。
 矢巾町の教育長は「認知がなければ、(いじめ防止の)成果が上がっているという考え方があった」と語った。いじめが表面化しないことを評価する空気があったなら、その要因も解明すべきだ。
 兆候をできるだけ早く察知し、いじめの芽を断つことが防止の基本だ。沖縄の教育現場も対応を再確認しなければなるまい。