<社説>強制連行和解 前向きな「過去の克服」だ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 第2次世界大戦中の中国人の強制連行をめぐり、三菱マテリアルが中国側被害者交渉団との包括和解に合意する方針を固めた。「過去の克服」を図る上で、大きな前進であると高く評価したい。

 人数についてはさまざまな説があるが、大戦中に日本が中国人を強制連行した事実は多くの損害賠償訴訟判決で認定されている。
 日本の外務省が終戦直後にまとめた報告書も1993年に見つかり、約3万9千人が「供出」されたと判明した。全国35社、計135カ所の炭鉱や建設現場で労働を強いられ、うち6830人が死亡している。6人に1人が死んだわけで、いかに過酷な環境だったかが分かる。
 日中国交正常化をうたった72年の日中共同声明は「中国は日本に対する戦争賠償請求を放棄する」と記した。専門家によると、声明に対する日中両政府の理解は、正常化時点では「賠償は国家間だけでなく民間も含む」というものだった。だが90年代半ばから中国政府は「個人の賠償請求は阻止しない」との立場に立つようになる。
 それを機に中国人被害者が日本で損害賠償訴訟を相次いで提起した。前述したように多くの判決で強制連行や強制労働の事実は認定されたが、最高裁は07年、請求を退ける判断を下した。一方で、「自発的対応は妨げられず、被害救済への努力が期待される」と異例の「付言」を示している。
 今回の和解はその付言を実行した形だ。三菱マテリアルが「反省と謝罪」を表明し、被害者計3765人を対象に、1人当たり約200万円を基金方式で支払う。日本企業が自主的に謝罪し、大規模な補償に踏み切るのは初めてだ。
 さらに記念碑建立費1億円と行方不明の被害者の調査費2億円も支払う。中国人被害者で健在なのはわずか十数人に減っており、中国側関係者は「被害の当事者が生きている間に人間の尊厳の回復を求めたい」として交渉していた。
 人道的な観点からみて被害者の放置は許されない。和解案は会社側が誠意を示すとも書かれており、非常に前向きな内容だと評価したい。
 何よりも民間同士で解決に至った先例としての意義が大きい。政府間は膠着(こうちゃく)状態であっても、民間の自主的な創意で「負の歴史」を乗り越えたことになる。対韓国でも同様の訴訟があるが、解決例として参考になるはずだ。