<社説>首相補佐官発言 政権の本音ではないのか


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 憲法を中心とした法的安定性を否定するような発言であり、耳を疑う。安倍政権の本音ではないのかと思いたくなる。

 礒崎陽輔首相補佐官が講演で、憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を可能にする安全保障関連法案について「法的安定性は関係ない。わが国を守るために必要かどうかを気にしないといけない」と述べた。
 時の政権の意向で憲法解釈はいくらでも変えていい、と言っているように聞こえる。安倍政権はこれまで安保法案について「法的安定性は確保できる」と説明してきたが、その姿勢とも矛盾する。
 法的安定性とは法律上の規定や解釈が大きく変わらずに安定し、信頼性が維持されている状態だ。権力者がこれを無視して恣意(しい)的な政治をするようになれば、憲法が国家権力を縛るという「立憲主義」は崩壊してしまう。
 発言には巨大与党のおごりもうかがえる。法的安定性を否定するようでは法治国家ではなく、政治家が思い通りに物事を決める「人治国家」でしかなくなる。
 発言について礒崎氏は自民党の聴取に対し「国民や委員会運営にご迷惑をお掛けした。心から反省し、おわび申し上げる」と謝罪したが、記者会見などで説明するのが筋だ。安倍晋三首相は野党からの礒崎氏解任の要求を拒んだが、自らの任命責任も自覚すべきだ。
 発言は安保法案をめぐる問題の本質をあらためて浮かび上がらせている。歴代の政権が憲法上認められないとしてきた集団的自衛権行使について、安倍政権が解釈改憲で容認したことで法的安定性が大いに損なわれている点だ。
 多くの憲法学者が法案は違憲と指摘している。報道各社の世論調査では違憲との回答が5割を超え、6割以上が法案に反対するなど、憲法への信頼も揺らいでいる。
 安保法案の審議は参院に舞台を移したが、首相らは衆院審議と同じ答弁を繰り返している。首相は「丁寧に説明」すれば国民の支持は広がると自信を示していたが、実際には法案への理解が広がるにつれ反対が増えている。そうした現状が念頭にあるのではないか。
 参院で法的安定性について正面から議論すべきだが、国民の大半が違憲と指摘する法案をごり押しするような暴挙が許されていいはずがない。現実を直視すれば、法案は廃案にするしかない。