<社説>女児虐待死 守れる命を守れなかった


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 数多くのサインが出ていたにもかかわらず、わずか3歳の、最も弱い立場の命を守れなかった。痛恨の極みと言うほかない。

 3歳の長女に暴行を加えて死なせた傷害致死の疑いで21歳の男が逮捕された。3カ月も前から家庭内暴力(DV)の疑いが持たれ、確かに公的機関は対応に動いたが、間に合わなかったのも事実だ。犠牲者が出た事実は重い。どこに欠陥があったのか、きちんと検証すべきだ。
 4月中旬、妻へのDVの疑いありとの情報が一家の住む沖縄市の市役所に寄せられた。市職員が家庭訪問したが、妻は対応を拒む。その後、妻は知人宅に身を寄せたが、男が居所を察知したので県の施設に一時避難した。
 前後して4歳の長男がけがをし、県警は4月下旬、「児童虐待の疑いあり」とコザ児童相談所に情報提供した。コザ児相はすぐに一家を訪ね、妻に一時保護などの仕組みを説明した。その後も直接訪ねたり電話したりと十数回も接触し、生活保護の相談に乗って一緒に市役所窓口に行ったり新居を探したりと親身に対応している。
 6月中旬、一家は宮古島の男の祖母宅へ転居した。妻は「祖母が監視してくれるから安心だと判断した」と説明した。コザ児相は宮古島署へ安否確認を依頼。訪ねた署員に妻は「最近夫も落ち着いた。暴力はない」と話した。署員は子どもの服の裾をめくって確認したが、傷はなかったという。
 だが妻はコザ児相に「警察が来て夫は興奮した。警察の訪問は控えてほしい」と連絡、児相はその旨警察へ伝え、警察の訪問は途絶えた。一方でコザ児相は頻繁に連絡を取り、妻への暴力を確認。母子を他県へ転居させる方針を決めた。転居先確保までの間、女性相談所への入所を促したが、妻は抵抗した。コザ児相は今月23日にも家庭訪問する予定だったが、別の虐待が発生し、翌週以降に出張を延期。その矢先に事件は起きた。
 女児が死亡した以上、問題点を指摘せざるを得ない。DV被害者は加害者を怒らせないことに神経をすり減らし、往々にして虐待被害を過小評価して話す。危険の見極めは十分だったか。宮古島には児童相談所がない。その点の影響はなかったか。
 別の虐待の対応を急がざるを得ないほど、児童相談所は職員が少なくて多忙過ぎたのではないか。検証すべきことはたくさんある。