<社説>厚木訴訟高裁判決 騒音被害救済は不十分だ


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 騒音被害者の救済としては不十分である。騒音の元凶を絶たない以上、静かな環境を求める基地周辺住民の苦しみは続く。

 米軍と海上自衛隊が共同使用する厚木基地の周辺住民約6900人が、国を相手に夜間・早朝の飛行差し止めや損害賠償などを求めた第4次厚木訴訟の判決で、東京高裁は一審に続き自衛隊機飛行差し止めを命じた。
 しかし、米軍機の差し止めについては「使用を許可する行政処分がない」として、一審同様に退けた。米軍機の飛行差し止めは国の支配が及ばないとする「第三者行為論」を持ち出したのである。
 住民生活に悪影響を及ぼす騒音に米軍機と自衛隊機の違いはない。米軍機の飛行差し止めが実現しなければ、騒音被害者の救済は果たされるとはいえない。
 自衛隊機の飛行差し止めの理由について判決は「住民の生活環境に関わり、健康に影響を及ぼす重要な利益の侵害だ」としている。この判断は当然、米軍機に対しても適用されるべきである。
 嘉手納、普天間を含め全国6カ所で基地騒音に関する訴訟が起きている。国の騒音対策では住民生活を守ることができないと基地周辺住民は訴えているのである。 
 米軍機飛行差し止めを視野に入れた判断を下すことは主権国家の司法のあるべき姿である。「静かな夜」を求める基地周辺住民の切実な訴えを「第三者行為論」で退ける司法の思考停止をこれ以上繰り返すことは許されない。
 1994年2月に第1次嘉手納基地爆音訴訟の判決を下した瀬木比呂志氏は2013年の著書の中で「重大な健康被害が生じた場合には飛行差し止めも認められる」との論理を構築しようとしたことを明らかにした。米軍機差し止めは不可能ではない。
 一方、今回の判決は将来分の損害賠償を初めて認めた。被害救済の幅を広げるとともに、騒音被害を早期に是正するよう国に迫るものである。
 航空機騒音から住民を守る措置を怠ってきた国に対し、司法は一審以上に厳しい判断を示したといえる。政府はそのことを重く受け止めるべきである。
 判決を受け、中谷元・防衛相は「判決は受け入れ難い。上告を検討する」と述べた。基地周辺住民の苦しみを軽んじる発言だ。騒音被害の実態を直視し、抜本的な救済策を講ずることが先決だ。