<社説>新基地協議書 国の約束違反は目に余る


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 名護市辺野古への新基地建設に向けた埋め立て本体工事の実施設計と環境保全策に関する沖縄防衛局の協議書について、県は内容に不十分な点があるとして取り下げを求めた。

 県が不十分としているのは海底ボーリング(掘削)調査が終わっていないため、実施設計が護岸全22カ所のうち12カ所の記述にとどまっている点だ。このため、県は埋め立て工事の詳細な内容が分からず、不十分な環境保全策を基に協議することはできないと判断した。極めて正当な判断である。
 そもそも中途半端な内容を基に協議を求めること自体あり得ない。国は無責任な協議書を取り下げるべきだ。だが、菅義偉官房長官は「取り下げる考えはない」と明言している。不十分な内容で、何を協議するというのか。
 菅長官は「那覇空港滑走路の増設についても実質的協議を分割して行っている」と述べている。あたかも県が二重基準で対応しているような口ぶりだが、事実は大きく異なる。
 県と国は那覇空港滑走路増設事業で、実施設計の事前協議を2回行っている。1回は護岸工事全体を対象にしたもので、もう1回は護岸本体とは異なる水路を対象とした協議である。
 新基地建設に関する協議書は護岸本体を分離するものであり、那覇空港滑走路増設事業の分割協議とは本質を異にする。二重基準で対応しているのは国の方である。
 それにしても、新基地建設に向けた国の約束違反は目に余る。仲井真弘多前知事が埋め立て承認の際に求めた留意事項を形骸化させることに終始している。
 事前協議も留意事項の一つである。だが、国は不完全な協議書を提出して平然としている。
 それだけではない。防衛局が留意事項によって設置した「環境監視等委員会」の委員に、協議書の環境対策の内容を知らせていなかった。これでは何のために委員会を設置したか分からない。
 委員会の議論を協議書に反映させたとしているが、委員に諮るのが筋である。委員会軽視も甚だしい。専門家が議論した形だけを残すことが目的だったと疑わざるを得ない。
 留意事項の順守は埋め立て承認の条件である。国がそれを守らない以上、埋め立て承認は無効だ。