<社説>移設 本土が拒む 犠牲の構図は受け入れない


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄に犠牲を強いているのは、日本政府であるという証拠がまた一つ明らかになった。

 1995年の米兵少女乱暴事件時に米国務省日本部長を務めたロバート・ライス氏が、米軍普天間飛行場など県内米軍基地返還をめぐる日米間協議について証言し、日本側が国内の反対を理由に本土移転を望まず、県内への整理統合を選択したことを明らかにした。
 ライス氏は日本政府が「どの基地も本土に移転することは望まなかった。それは基地を増やすことに本土は反対しているからだ」と証言している。
 安倍晋三首相は「辺野古が唯一の選択肢」と県内移設を繰り返している。しかし、移設交渉の過程で、日本側が県外移設という選択肢をあらかじめ排除し、沖縄ありきだったことが分かる。本土にとって「迷惑」になりそうなら沖縄を犠牲にするという構図は、とうてい受け入れられない。民主主義の国にあるまじき行為だ。
 那覇空港の米軍P3B哨戒機をめぐり、米側が当初、岩国(山口)や三沢(青森)への県外移設を検討したのに対し、当時の福田赳夫外相が県外移設を拒み、「沖縄にとどめてほしい」と求めたことがある。岩国は佐藤栄作首相(当時)の地元だ。結局、沖縄の負担は減らず嘉手納基地移設で決着した。
 日本復帰後の1972年から73年にかけて、米国政府が在沖米海兵隊基地を米本国に引き揚げようとしたが、日本政府が引き留めたことも公文書で明らかになっている。
 70年代中盤、米海兵隊内部で、政治的抵抗などを理由に在沖米海兵隊の撤退や代替案の提案が積極的に行われていた。95年にも、2005年の現行案決定の時も、米国は在沖米海兵隊の米本国撤退や県外移設を提案している。そのたびに日本政府は沖縄に置くよう求めている。
 多くの県民の辺野古移設反対の意思表示に耳を貸さず、普天間飛行場の移設問題をこじらせているのは、ほかならぬ日本政府なのである。
 日本政府は辺野古移設については「決めたことは何が何でも進める」という姿勢だ。一方、新国立競技場建設問題の場合は、一度決めて世界中に公表した計画が批判されると変更するという。
 安倍政権が思考停止をやめて沖縄の意思に真摯(しんし)に向き合えば、答えを出すことは難しくないはずだ。