<社説>被爆者「9条堅持」 安保法案成立は許されない


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 全国の被爆者に尋ねた共同通信のアンケートで、憲法9条改正について7割近くが「反対」と答えた。悲惨な体験をしたことから「二度と戦争をするべきではない」と考える被爆者の多くが9条堅持こそ不戦につながると考えている。

 9条改正に反対する理由について「戦勝国の手が加わり成立したとしても、条文により戦後の人命は守られた」(86歳男性)、「拡張解釈され戦争を肯定する方向に行く」(70歳男性)ことを挙げた。9条こそ戦後日本が再び戦争をしない歯止めとなっていると考えているのだ。
 こうした被爆者の声に政府は果たして顔向けできるだろうか。先月末に参院で審議入りした集団的自衛権行使を可能にする安全保障関連法案は多くの学者が憲法違反だと指摘している。
 ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英京大名誉教授は「憲法9条を改正しなければできない戦争を、安倍晋三首相が『有事』と思ったらできるようになる。とんでもない話だ」と批判した。
 政府は9条を改正するのではなく、現憲法下で9条を骨抜きにする法案を成立させようとしている。9条の下で維持されてきた国のありようを変えようとするこうした動きに、被爆者の多くがおののき、憂い、焦りを募らせているのだ。
 憲法が国家権力を縛るのが「立憲主義」だ。制約される政府の側が安保関連法案による憲法解釈変更を「裁量の範囲内」と説明していること自体、立憲主義を尊重しないと言っているのも同然だ。
 憲法をないがしろにする発言が首相の側近からも飛び出した。礒崎陽輔首相補佐官が安保法案をめぐり「法的安定性は関係ない。わが国を守るために必要なことを憲法が駄目だと言うことはあり得ない」などと述べた。政府のやることに憲法が歯向かうはずがないとの主張だ。立憲主義無視も甚だしい。まさに政府の本音だろう。
 琉球新報社などが5月末に実施した世論調査でも9条を「改正する必要はない」との回答は70・2%に上っている。法案にも73・2%が「反対」と答えている。70歳以上ではさらに割合が高くなっており、沖縄戦の体験が影響していることが分かる。
 政府はこうした被爆者や戦争体験者の声に真摯(しんし)に耳を傾けるべきだ。9条を骨抜きにする安保関連法案の成立を強行することなど許されない。