<社説>刑事司法改革 「冤罪の懸念」消えていない


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 警察と検察による取り調べの録音・録画(可視化)の義務付けや司法取引の導入、通信傍受の対象拡大を柱とする刑事訴訟法などの改正案が衆院本会議で与野党の賛成多数で可決された。

 参院での審議を経て今国会で成立する見通しで、新たに導入される司法取引制度は2017年をめどに始まる公算だ。
 相次いだ冤罪(えんざい)事件をきっかけに議論が始まった刑事司法改革だが、改正案の中身は「冤罪防止」より「捜査拡充」に大きく偏り、冤罪の危険性を高める内容だ。冤罪や誤判の懸念が払拭(ふっしょく)されておらず、これでは国民は納得できない。
 可視化が義務付けられるのは、裁判員裁判の対象事件と特捜部など検察の独自捜査事件に限定され、全事件の約3%にすぎない。不十分だ。逮捕前の任意聴取も含めて全事件の全過程を対象にし、捜査当局の裁量を認める例外規定も削除すべきだ。冤罪を防ぐには、警察段階の全面可視化と証拠の全面開示が不可欠だ。
 可視化対象を限定した一方、捜査手法は拡充させている。司法取引は経済事件などに限られるが、容疑者や被告が自分の利益を考えて捜査機関の言いなりになり、うそをついて無実の人を犯罪に巻き込む危険性がある。
 取引には弁護人が必ず立ち会い、検察が合意までの協議の記録を作成して裁判が終わるまで保管することが義務付けられた。だが、合意に至る過程の可視化は取り入れられていない。
 電話やメールの傍受対象も拡大された。「プライバシー侵害の恐れがある」と多くの批判があるほか、対象が将来的には特定秘密保護法の情報漏えいを証明するのに使われる可能性さえ指摘されている。第三者が不当な捜査をチェックすることもできず、乱用される恐れも否定できない。適正に運用されているかどうかを監視する第三者機関が必要だ。
 批判の多い「人質司法」「代用監獄」制度が廃止されていないなど、誤認逮捕や自白強要への懸念は残されたままだ。
 密室での取り調べに依存した捜査から脱却し、冤罪をなくせという国民の声を反映した改革とは言い難い。刑事司法改革がなぜ始まったのかということを忘れている。参院では冤罪を防ぐという原点に立ち返り議論をやり直すべきだ。