<社説>自民議員発言 異論排除は全体主義への道


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 国会議員の資質、見識の劣化が甚だしい。

 安全保障関連法案に抗議する若者グループ「SEALDs(シールズ)」の主張について、自民党の武藤貴也衆院議員がツイッターで「『戦争に行きたくない』という極端な利己的考え」と批判した。
 シールズは「平和主義の下で誰も戦争に行かせたくない」と主張する。平和憲法に基づくこの主張のどこが「利己的」なのか。安保関連法案は、歴代内閣法制局長官や多くの憲法学者も違憲だと主張している。
 谷垣禎一幹事長は「自民党を支える人々の中にも『戦争はこりごりだ』という感覚があることを謙虚に学ぶ必要がある」と苦言を呈した。それでも武藤氏は発言を「撤回するつもりはない」という。ならば公の場で説明すべきだ。
 武藤氏は憲法を尊重擁護する義務(99条)のある国会議員である。しかし、自身の公式ブログで国民主権、基本的人権、平和主義という憲法の三大原則を「日本精神を破壊する」と主張している。特に基本的人権を「主犯」と指摘するなど、明らかに99条を逸脱している。
 武藤氏はフェイスブックで「各国が平和を願い努力している現代において、日本だけがそれに関わらない利己的態度をとり続けることは、責任放棄だ」とも述べている。勘違いも甚だしい。
 日本国憲法は国際協調主義を取っている。「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」(前文)とし、世界中の貧困や人権侵害など構造的暴力に立ち向かう姿勢を明確にしている。「一国平和主義」でも「利己的」でもなく、平和学者のガルトゥング氏が提唱する「積極的平和」の実現を目指しているのである。
 武藤氏をはじめ、安保関連法案をめぐり「法的安定性は関係ない」と立憲主義を軽視した礒崎陽輔首相補佐官発言など、自民党若手の言動に危うさを感じる。憲法違反と指摘されても耳を貸さず、安保関連法案の成立に前のめりになっている安倍政権の危うさとも重なる。
 シールズのメンバーは主に10代から20代前半の学生だ。若い世代の政治参加は健全な民主主義国家の姿だといえよう。これに対し、異なる意見に「利己的」とレッテルを貼ってどんどん排除すれば、行き着く先は全体主義国家だ。