<社説>東電幹部強制起訴 民意踏まえ責任糾明を


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 福島第1原発事故をめぐり、東京電力の旧経営陣3人が強制起訴されることが決まった。
 業務上過失致死傷罪で告訴・告発され、東京地検が2度不起訴処分にした東電の勝俣恒久元会長らについて、第5東京検察審査会が「起訴すべきだ」と議決した。

 大津波が来る危険性を予見していたにもかかわらず、「必要な措置を怠り、津波による浸水で重大な事故を発生させた」とし、「人災」と断じた。
 原発で重大事故が起きれば、放射性物質が拡散され、取り返しがつかない事態を招く。原発に「想定外」の言い訳は許されないという民意に沿った議決である。
 未曽有の事故の責任が誰にあるのか糾明されないままでは、原発関連死に追いやられたり、長期間の避難を強いられたりしている福島県民の無念は報われない。事故の再発防止にも影を落とすだろう。
 議決は、多くの国民が抱く率直な危機感をも反映している。公判では、事故の原因と責任の明確化など、真相究明を期待したい。
 焦点は、東日本大震災に伴って起きた巨大津波が予測可能だったかだった。地震調査研究推進本部のデータを基に、東電は2008年の段階で敷地南側で最大15・7メートルの津波襲来を試算していた。
 大津波が来るという重大な指摘を聞き流し、安全対策強化を先送りしていた東電の責任は重い。
 第5検審は、東電が浸水事故が電源喪失を招く危険性を認識していたとし、万が一に備える高度な注意義務を負っていたと認定した。
 浸水事故が発生すれば、最悪の場合、大量の放射性物質が排出される具体的予見可能性もあったとし、経済合理性を優先させたと厳しく批判している。
 安全神話に浸り切り、大津波や電源喪失などの危険性を無視し続けた不作為の連鎖が、過酷事故を招いたと結論付ける内容である。
 公判での有罪立証には困難も予想されるが、東電幹部3人が公の法廷に立つ意義は大きい。原発事故をどう認識し、安全対策にどう取り組んでいたかについて、肉声による証言を聞けるからだ。
 九州電力川内原発1号機(鹿児島県)が11日にも再稼働され、全原発停止が崩れる。再稼働を推進する政府は福島の事故の教訓に背を向けていまいか。福島事故の風化を防ぐ意味でも、3人の公判で安全軽視の深層に迫ってほしい。