<社説>移設作業中断 民意実現の準備に充てたい


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 政府が米軍普天間飛行場の移設先である名護市辺野古での新基地建設作業を10日から中断した。

 昨年1月の名護市長選、9月の名護市議選、11月の知事選、12月の衆院選と、関連する全ての選挙で移設反対派が完勝したが、「新基地建設を止める」という沖縄の民意が、曲がりなりにもようやく一つの形になったと言える。
 中断は政権の強硬姿勢を打ち消そうとする弥縫(びほう)策にすぎない。政府は「辺野古が唯一」との主張を変えていないから楽観は禁物だ。だが、沖縄の強固な民意に政府が追い詰められた結果であるのもまた間違いない。
 戦後の沖縄は米軍に民主主義も自治も否定される甚だしい人権侵害を受けた。だが島ぐるみ闘争、教公二法阻止、主席公選、そして本土復帰と、市民的不服従によって一つ一つ人権をかち取った歴史を持つ。今回の作業中断はささやかながらその列に加わる実践と言える。民主主義を体現する在り方をわれわれは誇っていい。
 とはいえこれはあくまで一時中断にすぎない。これからが本番だ。
 移設作業のサンゴ破壊の疑念から県は調査のための海域立ち入りを申請したが、日米両政府は却下してきた。今回はこれも認める方向だ。県はまずこの調査を徹底的に実施してもらいたい。
 潜水撮影を見ても最大45トンもの巨大なブロックがサンゴを破壊した事実は動かない。単なるアンカー(錨(いかり))を下ろすという申請時の国の説明との乖離(かいり)は明らかだ。
 徹底調査で破壊の証拠は数多く見つかることになろう。1カ月の集中協議中は県も国も作業を止めることになっているが、停止期間明けには速やかに岩礁破砕許可取り消しをすべきだ。
 問題は前知事の埋め立て承認についてである。弁護士や環境学者ら有識者の第三者委員会は手続きに瑕疵(かし)ありとの報告書を提出した。公有水面埋立法の条文に則して多角的に検証した結果だ。埋め立て承認の取り消しも、政府の好きな言葉で言えば「粛々」と実施する以外あるまい。
 翁長雄志知事は9月下旬に国連人権理事会で演説する。演説は、承認取り消しという実績を背景にして初めて訴求力を持つ。県はその好機を逃すべきではない。作業中断の時間をその十分な準備に充ててほしい。そして、移設の中断でなく断念という、民意の真の実現につなげてもらいたい。