<社説>駆け付け警護検討 「法の支配」を重んじよ


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 11日の参院平和安全法制特別委員会に提出された自衛隊の内部資料は、自衛隊と政治の在り方を考えると非常に危険なものだ。

 内容は審議中の安全保障関連法案成立を見越し、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)部隊に「駆け付け警護」を新たな任務として加えるというものだ。
 「駆け付け警護」は、国連職員や非政府組織(NGO)が紛争に巻き込まれた際、PKO参加の自衛隊が武器を使って救助に当たる。現行のPKO協力法では武装集団が「国や国に準ずる組織」である場合、憲法9条が禁じる海外での武力行使に当たるとして認めていなかった。
 紛争地などで30年以上活動するNGO日本国際ボランティアセンターは「多くの例は武力でなく交渉で解決に導かれる。現実的でない」と実施に異議を唱えている。自衛隊が発砲する事態になれば、日本は紛争当事国となり、平和国家としての信頼を失うからだ。
 また法案は審議中であり、しかも派遣先拡大、武器使用に伴う自衛隊員のリスク増は焦点の一つになっている。国会での議論が深まっていないのに、慎重さが求められる任務拡大を統合幕僚監部、いわゆる制服組が企画したこと自体も問題だ。質問した小池晃氏(共産)が「戦前の軍部の暴走と同じだ」と指摘したのも当然だろう。
 ことし6月に成立した改正防衛省設置法では、部隊運用で制服組が主体となることも盛り込まれ、防衛官僚(文官)が歯止めとなる「文官統制」が全廃された。懸念されていた制服組の暴走が、早くも現実になったといえよう。
 統合幕僚監部が資料を作成したのは安保関連法案を閣議決定した5月だという。背景にはことし4月の日米防衛協力指針再改定もある。地理的制約撤廃や米軍への後方支援などを約束したからだ。
 指針は多くの憲法学者が違憲だと指摘する安保関連法案を先取りしている。実行したければ改憲が必要な中身だが、手続きを無視して安倍政権は米国と約束を交わしたことになる。
 首相は常々「法の支配を重んじる」と発言している。しかし実際は日米防衛協力指針や安保関連法案に見られるように「法の支配」を逸脱し、憲法を骨抜きにしている。制服組の暴走を招いた遠因は政権の暴走だ。安保法案の撤回を手始めに、政府は「法の支配」を重んじる原点に立ち返るべきだ。