<社説>終戦70年式典 歴史認識が問われている


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 戦後70年の終戦の日をどう迎えたか。310万人の戦没者を出した太平洋戦争を経験した日本社会の見識が問われる重要な節目だ。

 政府主催の戦没者追悼式で、天皇陛下のお言葉と安倍晋三首相の式辞を比べると、先の大戦に向き合う姿勢に違いが見えた。
 天皇陛下が「さきの大戦への深い反省」に初めて言及したのに対し、安倍首相は「戦争の惨禍を繰り返さない」と述べたものの、歴代首相が言及してきたアジアへの加害責任とその反省について3年連続で触れなかった。
 傍観者的に見える首相の姿勢と、主体的に負の歴史に向き合う天皇陛下のお言葉との隔たりは大きい。安倍首相の「戦後70年談話」とともに、日本の侵略を受けたアジア諸国など海外からも注目を集めていたが、日本の宰相の不戦の誓いがどれほどの決意を帯びているのか。疑念を持たざるを得ない。
 天皇陛下の「おことば」には例年の追悼式にはなかった表現が随所に盛り込まれ、宮内庁のホームページで英語版も公開された。
 「平和の存続を切望する国民の意識に支えられ」「戦後という、この長い期間における国民の尊い歩み」も初めての表現である。
 自らの平和への思いを凝縮し、戦後70年間、懸命に平和を守る努力をしてきた国民に向けたメッセージだと読める。昭和史に詳しい作家の半藤一利さんは「安倍政権が進める安保法制に反対し、日々行動する国民も含めている」(16日付東京新聞)と分析した。
 戦後70年の節目に当たり、天皇、皇后両陛下は昨年、沖縄、広島、長崎を巡り、4月にはパラオなどを訪ね、戦没者のみ霊を慰めた。戦争体験者や遺族が高齢化する中、戦争を二度と繰り返してはならないという意識の継承に思いをはせる行脚はお言葉に反映されている。
 安倍首相は過去2年はなかった「戦争をしない決意」に言及した。安保法制の成立を目指す中、批判を避けたいとの狙いがあろう。だが「反省」を欠いたまま、「歴史を直視して、常に謙抑を忘れない」と述べても説得力に欠ける。
 女性閣僚3氏が靖国神社に参拝し、中韓両国は反発しており、安倍政権全体の歴史認識が問われている。「平和存続を切望する国民」として、戦争のなかった70年間をかみしめ、不戦と反省を胸に刻みたい。