<社説>はえ縄切断 米軍は関与の有無を示せ


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 被害が繰り返されるのは、根本的な対策を講じようとしない日米両政府の無責任な姿勢が続いているからだ。昨年と同様、沖縄本島の南約100キロの海域で、県内のマグロはえ縄漁船のはえ縄が切断される被害が2件発生した。

 被害に遭った2漁業者のうち1人は、当時米軍らしき艦船を目撃し、動画を撮影している。もう1人は昨年も被害に遭っている。これでは安心して操業できない。報告を受けた県漁業協同組合連合会(県漁連)は、ワシントンの米海軍省法務部に被害を報告したが、返事はないという。不誠実な対応だ。米海軍は直ちに関与の有無を明確にすべきだ。
 被害は日本の排他的経済水域(EEZ)で起きている。日本政府は国内法にのっとって調査し、原因を究明し、責任の所在を明らかにすべきである。日米安保条約で米軍を駐留させているから被害が起きる。当然、日本政府にも責任があるはずだ。
 沖縄の周辺海域には、沖縄本島の24倍に及ぶ広大な米軍訓練水域がある。漁民は広大な好漁場といわれる訓練水域から閉め出された上、通常の漁場で操業していても被害に遭っている。
 はえ縄は延長が100キロを超えることもあり高価だ。いったん切断されると、修理に時間がかかる。はえ縄の相次ぐ切断被害は、漁民にとっては死活問題だ。
 被害に遭った海域近くで、2014年5~6月にマグロはえ縄漁船9隻計21件のはえ縄が切断されている。米海軍の音響測定艦の関与が疑われている。
 県漁連は被害に遭った9隻の漁具補償と休業補償合わせて1164万円を米軍側に請求した。しかし、米軍は1年たった現在も、はえ縄切断の認否をせず、賠償金も支払われていない。
 沖縄周辺のEEZ内は米軍以外にも課題を抱えている。中国や台湾からやってくる漁船だ。13年に日台漁業取り決め(協定)を締結した。EEZ内であるにもかかわらず、台湾漁船とのトラブルを恐れて、同協定の適用水域内での漁を自粛する漁業者も多い。
 沖縄海区漁業調整委員会でEEZ内での安全操業確保について「防衛省や水産庁、外務省など国からの支援がない」という不満が出ている。日本政府は責任を持って漁業者が安全に操業ができるような仕組みをつくるべきだ。