<社説>「育鵬社」選定 議事録の即時公開が必要だ


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 子どもたちの教科書をどう選ぶか。保護者はじめ多くの人たちが関心を寄せるテーマに違いない。

 石垣市と与那国町で来年度から4年間使用される中学校教科書の選定作業で、教科用図書八重山採択地区協議会(会長・石垣朝子石垣市教育長)が、育鵬社版の「公民」を選んだ。選定の経緯や審議内容は公開されておらず、極めて遺憾なことだ。
 協議会の会合は日時や場所を伏せたまま、17日に閉館日の市立図書館で開かれたという。関係者によると教育委員や保護者代表、学識経験者ら8人の委員が出席し、全会一致で育鵬社版を選んだ。
 一方、歴史教科書については育鵬社版と帝国書院版で意見が分かれ、石垣会長を除く投票の結果、4対3で帝国書院を選定した。
 育鵬社の教科書は愛国心教育など保守色が強いことで知られる。公民では領土や拉致問題に詳しく、日米安保体制の重要性を強調している。一方で沖縄の米軍基地問題の記述は少なく、普天間問題でも政府の主張を中心に説明しているといった批判が強い。
 今回の選定では市民団体が審議の公開を求めていたが、協議会は「静謐(せいひつ)な環境で審議する」として傍聴を認めず、全面非公開にした。この判断は甚だ疑問だ。
 竹富町を含めた八重山の教科書選びでは2011年8月、教科書を調査した教員が推薦しなかった育鵬社版にするよう採択地区協議会が答申した。石垣市と与那国町は12年度からの育鵬社版の使用を決めたが、選定方法を問題視する竹富町は教育委員で複数社の教科書を読み込み、東京書籍版を採択したことは記憶に新しい。
 その経緯を考慮すればなおさら非公開判断は解せない。協議会の規約では審議は公開が原則だ。例外的に非公開も認められるというが、意見が大きく割れている問題で市民の目を避けるように決定していいはずがない。議論の透明性確保は最低限の責務であるはずだ。
 ことしは4年に1度の公立中学の教科書採択年だ。大阪などいくつかの地域で育鵬社版を選んだ教育委員会に対し、不採択を求める市民団体が選定の過程を含めて批判している。
 八重山の協議会は月内に育鵬社版の採択を石垣、与那国の両教委に答申し、教委の採択後に議事録を公開する予定だが、順序があべこべだ。再審議も視野に、直ちに議事録を公開すべきである。