<社説>通告なき降下訓練 規律の緩みが危険を増幅する


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 米軍の安全軽視と軍事最優先の運用がまた明るみに出た。

 一般漁船が操業できる海域に突然、米兵や物資がパラシュートで降下した。異常事態そのものだ。
 事前通告なきまま、米軍は津堅島沖の訓練水域でパラシュート降下訓練を実施した。目撃者によると、4人の兵士に加えてボートとみられる物資も着水した。
 「空から降りてくるのは困る。ウミンチュの生活に関わる問題だ」。勝連漁業協同組合長の切実な訴えが事態の重大さを物語る。降下海域は日ごろから津堅島往復の定期船や漁船が航行しており、備えのない漁船の乗組員などが被害に遭う可能性は拭えない。県民の命を危険にさらす行為に厳重に抗議したい。
 パラシュート降下訓練は、1996年のSACO(日米特別行動委員会)最終報告で、読谷補助飛行場から伊江島に集約された。沖縄防衛局は陸域の訓練に限るとしているが、降下訓練には危険が付きまとう。陸海を含めて県内での訓練は中止すべきだ。
 7日前までになされないといけない事前通告について、米軍は「内部手続きの不備」で通告していなかったことを認めた。
 米本国なら起こり得ただろうか。日米地位協定で排他的管理権を付与され、やりたい放題に近い訓練ができる沖縄で、緊張感を欠いた運用が続いている表れではないか。
 うるま市沖で起きたMH60ヘリ墜落事故も原因が究明されないまま、飛行が再開され、県民の反発が強まっている。そのさなかの通告なき降下訓練実施である。
 軍の規律の緩みと沖縄軽視が交錯する不祥事だ。手続きを怠ったという説明だけでは済まされない。
 沖縄防衛局は米軍に「遺憾の意」を伝えたが、対応は生ぬるい。懲戒処分を科したかを確認し、県やうるま市に報告するぐらいの厳しい姿勢を示すべきだ。日ごろの米軍への弱腰がこうした事態を招く遠因であることを自覚してほしい。
 米軍の訓練通告は期間と種類だけが示されたメモ程度の内容で、いつ、どこで、どんな訓練があるのかはつかめない。住民や漁民の安全確保に不可欠な情報が乏し過ぎる。
 米本国の基地では種類や開始日時と時間帯など、訓練内容が地元自治体と住民に公開されている。沖縄の訓練実態には差別を帯びた二重基準が目立つ。一刻も早く是正しなくてはならない。