<社説>維新分裂 政治不信を招きかねない


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 目まぐるしく変わる言い分は、たどることすら難しい。有権者の理解を得ることが仕事である人々の、これがあるべき姿なのか。

 維新の党の分裂が避けられない情勢となった。松井一郎大阪府知事とともに27日に離党した橋下徹大阪市長は28日、「大阪維新の会(同党の大阪系国会議員)で国政政党をやる」と明言した。
 離党の際、橋下氏は「大阪に全勢力を傾注するため」と説明し、「党は割らない」と明言していた。一晩で180度違う発言をしたことになる。
 同党幹部から「人間性を疑う」との声が上がったのも故なしとしない。国民は、とりわけ同党に投票した有権者は納得するだろうか。
 分裂の経緯からして分かりにくいことおびただしい。柿沢未途幹事長が党としての対応が決まっていない山形市長選で特定の候補予定者を応援したことが問題とされたが、なぜそれが幹事長の辞任要求にまでなるのか。ついには分裂に至るのか。原因と結果があまりに不均衡との印象を否めない。
 もともと橋下氏らと松野頼久代表らとの間で路線対立があった。安倍晋三首相に近い橋下氏と民主党との連携を志向する松野氏、安全保障法制に親和的な橋下氏と距離のある松野氏。亀裂は明らかだった。つまるところ離党が目的で、山形市長選応援問題は単なる口実にすぎなかったのではないか。
 政治が重要な局面を迎えたこの時期、主導権争いで政党を割ったとすれば、野党第2党の指導者としてあまりに無責任だ。
 橋下氏は5月に「大阪都構想」をめぐって大阪市で住民投票を行ったが、その際、「住民投票は1回限り」と訴え、否決の際は都構想断念と表明した。だが今回、都構想を再び掲げて大阪の府知事と市長のダブル選挙に臨むと明言した。
 都構想否決の際には政界引退も明言したが、引退撤回の観測も強まっている。君子豹変(ひょうへん)すと言うが、前言撤回があまりに多いと政治家の言動を国民は信用できなくなる。政治離れを加速させることにもなりかねない。いずれにせよ橋下氏らは真意を国民に説明する責任があろう。
 松野氏らは民主党と合流の構えだ。自民一強を崩す受け皿を望む声は強いが、単なる数合わせが国民の期待を裏切った例は枚挙にいとまがない。民意をくむ政策をきちんと構築できるのか。国民が見ていることを忘れてはならない。