<社説>五輪エンブレム撤回 無責任な組織体質見直せ


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 新国立競技場建設問題に続き、前代未聞の事態が起きた。2020年東京五輪・パラリンピック大会組織委員会は佐野研二郎氏デザインの公式エンブレムを白紙撤回し、あらためて公募で選考し直すと発表した。大会を象徴する二つの意匠が見直される。国際社会からの信用は地に落ちる寸前だ。

 五輪エンブレムだけでなく、佐野氏が関わった複数のデザインで他の作品との類似性が指摘されたことに加え、エンブレム活用例の写真を著作権者に無断で流用していたことが明らかになった。
 写真流用は論外としても、デザイン自体はアルファベットを丸や三角、直線を組み合わせて表現したものであり、すぐに模倣と指弾することはできない。
 組織委は白紙撤回の理由として佐野氏本人の取り下げと、使用について「一般国民の理解が得られない」ことを挙げている。
 問題は疑惑や課題が指摘されるまでの組織委の対応と、選考過程の不透明さ、さらには責任者不在ともいえる組織委の体質だ。
 新国立競技場とエンブレムの選考は“密室”で行われ、発表された後に次々と課題が指摘された。いずれも選考責任者が後になって記者会見で過程を説明した。しかし建築やデザインの世界で公開コンペが行われる例は幾つもある。選考会を公開開催するなど最初から透明性を確保すれば済む話だ。
 組織委の対応も疑問が多い。事前の商標調査に3カ月かけたというが、類似性のある作品に気付きながらなぜ採用したのか。態勢がお粗末としかいえない。
 最大の問題は、このような組織委が5年後の本番を成功させられるかだ。組織委トップの森喜朗会長(元首相)はエンブレム撤回に「何が残念だ」と述べ、新国立についても「好きなデザインではなかった」などと人ごとのように話していた。舛添要一東京都知事も組織委を批判するが、東京都も開催都市として組織委に積極的に関与すべきだ。
 五輪憲章は「オリンピックのよい遺産を、開催国と開催都市に残すことを推進する」とある。現状では何も残さないどころか、赤字の箱ものや国民の疑念といった「負の遺産」しか残さない大会になりかねない。自らの不始末を人ごとのように語る責任者らを一掃し、一刻も早く組織委の「無責任体質」を見直す必要がある。