<社説>地位協定の壁 主権国家ではあり得ない


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 神奈川県相模原市の米軍基地で起きた爆発も、うるま市沖の米軍ヘリ墜落も、国内なのに日本側は何ら検証できない。沖縄では見慣れた光景だが、感覚をまひさせてはいけない。日本以外の主権国家ではあり得ない光景だからだ。

 検証できないのは、日米地位協定3条で日本側は米軍基地に一切手出しできない(米軍の排他的管理権)と規定しているからだ。この、幕末の日米和親条約にも等しい特権的な治外法権は、直ちに改めるべきだ。
 相模原補給廠(しょう)の爆発火災は、発生から6時間も消火に入れなかった。米軍が「ボンベが爆発した。保管していたのは1千本で、有害物質はない」と説明したのは事故の数時間後だ。その間、一帯を覆った煙に有害物質が含まれるのか否か、住民に知るすべはなかった。
 事故原因の情報もないから、再発の危険があるかも分からない。これだと避難の必要性の有無を住民自ら判断するのは不可能だ。自治体ですら同様だった。
 日本の高圧ガス保安法は、一定量を超えるボンベの貯蔵には県への届け出が必要と規定する。だが前述の排他的管理権のために米軍基地は適用外だ。立ち入り検査もできないから、どんな危険物があるか、一切が闇の中なのである。これでは国民の命は守れない。
 諸外国はどうか。ドイツでは米軍基地内もドイツ国内法が適用される。韓国では韓米地位協定に「環境条項」があり、自治体が基地に立ち入って調査できる「共同調査権」が確立されている。
 2004年の沖国大ヘリ墜落では米軍が大学を封鎖し、日本側には指一本触れさせなかった。だが1998年にイタリアで起きた米軍機ロープウエー切断事故では、イタリア当局が事故機を検証した。これらの国では、排他的管理権の容認などあり得ないだろう。
 イラク戦争の後に結ばれたイラク米地位協定は「米軍基地内の貯蔵品の種類と数量について、米国は重要な情報をイラク政府に提供する」と定める。10年前の敗戦国が、70年前の敗戦国が要求すらできないでいる主権を、毅然(きぜん)として獲得したのだ。
 日本には、つい最近、敗北して米軍の占領下にあった国以下の主権しかない。その現実を直視したい。「美しい国」を標榜(ひょうぼう)し、国家主権を重視する安倍内閣が、この屈辱的協定をなぜ放置するのか、全く理解できない。