<社説>マイナンバー 開始延期含め再度議論を


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 マイナンバー制度で、12桁の個人番号を通知するカードの配布が10月に始まる。情報流出や国の監視強化への懸念が尽きないままでのスタートは疑問だ。

 マイナンバーは赤ちゃんからお年寄りまで国内に住民票がある国民全員に番号を割り当てる。行政事務作業の効率化が目的で、主に確定申告などの税金、年金などの社会保障、災害関連の3分野で、個人情報を番号に結び付けて管理する。
 番号は原則として生涯変わらない。サイバー犯罪が増えている中、情報漏えいに対する国民の不安が消えないのは当然だ。
 10月には個人番号を記した「通知カード」が全国民に届く。来年1月の行政手続きでの利用開始後は希望者に写真付きの「個人番号カード」を交付するが、さまざまな問題が指摘されている。
 通知カードは10月5日以降、全世帯に一斉送付されるが、少なくともその5%に当たる275万世帯分が「受取人不在」などの理由で届かない可能性がある。
 送付される宛先は住民票の住所だ。家庭内暴力(DV)被害者など、暴力から逃れつつも居場所が分からないように住民票を変えていない人はどうなるのか。施設入居者や震災被災者らを含め、総務省は希望者が現住所で受け取るための申請を今月25日まで受け付けるが、国民にそうした周知が進んでいるとは到底思えない。
 制度をめぐっては、2018年から銀行などの預金口座にも任意で番号を適用する改正マイナンバー法が3日に成立した。政府が国民の資産を正確に把握し、脱税や年金不正受給を防ぐことが狙いとしている。だが番号の民間利用が広がればその分、情報漏えいのリスクが高まることは明らかだ。
 日本年金機構でことし5月に約125万件の個人情報流出が発覚した問題は国民の記憶に新しい。改正法では、個人番号と基礎年金番号を連結する時期を遅らせ、最長で17年11月まで延期する修正がなされたが、自治体のセキュリティー対策などを不安視する声も出ている。企業側は従業員の番号収集・管理に伴うコスト増に懸念を深めている。
 そもそもマイナンバーはプライバシー侵害や国民監視の「総背番号制」につながるとの批判も根強く、国民の合意形成が図られているとは言えない。1月のスタート延期も含め、再度の議論が必要だ。