<社説>「憲法の番人」発言 廃案迫る決定打に従え


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 「憲法の番人」である最高裁の山口繁元長官が安全保障関連法案について「集団的自衛権の行使を認める立法は憲法違反」とばっさり切り捨てた。

 安倍政権が法的正当性を担保する根拠として寄り掛かってきた最高裁の元トップが違憲と断じたインパクトは大きく、安保関連法案の法的正当性は完全に破綻した。
 憲法調査会で参考人として発言した3人の憲法学者全員、複数の元内閣法制局長官に加え、元最高裁長官がそろい踏みし、違憲と突き付けた。廃案を迫る決定打の意味合いがある。
 無理に無理を重ねた解釈によって合憲だと言い張ることはもう無理だ。まともな民主主義国家ならば、強引に成立させる愚を犯すまい。安倍政権は安保関連法案の成立を断念すべきだ。
 高校、大学生や子を持つ母親など反対する国民層は広がり、法律専門家、有識者の厳しい批判が強まるばかりだ。山口元長官の発言によって、安保関連法案がいかに国の根拠法である憲法に背く法律であるかが一層明白になった。
 にもかかわらず、安倍晋三首相は4日、「どこかの段階で決める時に決めないといけない。それが民主主義のルールだ」と述べ、今国会成立に突き進もうとしている。
 国民と民主主義に背を向けた首相が反対世論の高まりに焦りの色を濃くし、ご都合主義で「民主主義」を挙げて成立を急ぐ。本末転倒した今の状況はこの国が全体主義に近づく前触れに映る。
 政府・与党は「必要な自衛の措置」を認めた1959年の砂川事件最高裁判決と72年の政府見解を法案の合憲性の根拠に位置付けるが、山口元長官は「論理的矛盾があり、ナンセンスだ」と批判した。政権が意のままに憲法解釈を変更することに「立憲主義や法治主義が揺らぐ」と危ぶんでいる。
 憲法学者らによる違憲の指摘の後、自民党幹部らは「憲法解釈の最高権威は最高裁。憲法学者でも内閣法制局でもない」(稲田朋美自民党政調会長)と反論していた。山口元長官に違憲と指摘されると、谷垣禎一幹事長は「個々の裁判官ではなく、最高裁が示してきた判断を前提に議論を立てている」と言い出した。反論になっていない。
 「ああ言えばこう言う」の類いで言を左右する政権与党に、国民を危険にさらす法案の命脈を委ねるわけにはいかない。