<社説>在外被爆者補償 全ての被爆者を救済せよ


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 海外に住む被爆者も、国内居住者と同様に被爆者援護法の規定を適用し「医療費全額を支給すべきだ」とする最高裁判決が下された。

 居住地による格差が解消されることを歓迎する。一方で高齢化が進み、年々その数が減る在外被爆者の状況を考えると、国の対応は遅すぎたと言わざるを得ない。
 在外被爆者への補償は、これで国内居住者とほぼ同等になる。だがその権利は当事者が訴訟を重ねて勝ち取ってきたものだ。しかし国は裁判での敗訴や問題点を指摘される度に、該当箇所だけを通達変更や一部法改正で取り繕ってきた。抜本的に在外被爆者を救済する意思があったのか疑念を抱かざるを得ない。
 厚生労働省によると、在外被爆者は2015年3月末時点で約4280人いる。ただしこれは被爆者健康手帳の所持者だけであり、実数は分からない。そのほとんどは70代以上の高齢者だ。
 今回最高裁判決が示した「医療費の全額支給」も、戦後60年に当たり、在外被爆者調査を行った日本弁護士連合会(日弁連)がまとめた意見書で指摘されていた。公的医療保険制度がない外国では経済的負担が重く、高齢化する被爆者にとって諸手続き申請のための渡日も肉体的に困難だという指摘は当時からあった。実現まで10年かかったことを国は反省すべきだ。
 日弁連の調査によると、韓国・北朝鮮の被爆者は強制連行によって日本へ来た人もいるという背景がある。中南米の被爆者は戦後、政府の政策によって移民した人もいる。いずれも国が責任を持って救済すべき立場の人々だ。
 援護法の元となった旧原爆医療法(1957年制定)、旧被爆者特別措置法(68年制定)には「国内外」を分ける規定がない。これは当時、米統治下の沖縄を置き去りにせず、被爆者の住む場所、国籍に関わらず全てを救済するという理念があったからだ。日本に遅れはしたものの、当時「国外」だった沖縄でも法は適用された。
 今回の最高裁判決も「原爆の放射能に起因する健康被害の特異性と重大性に鑑み」「これを救済する目的で」「国内に居住しているかどうかを区別せずに援護の対象としている」と全ての被爆者が平等だと認めている。
 高齢化する在外被爆者に残された時間は少ない。国は法の理念を再確認し、今回こそ抜本的な救済策を速やかに実行すべきだ。