<社説>山口組分裂 警戒強めて市民を守れ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 反社会的勢力の分裂が規模縮小につながるなら好ましい。しかしそれで市民の危険が高まるとすれば、看過できない。

 指定暴力団・山口組が分裂し、新組織の神戸山口組が発足した。警察は抗争の可能性もあると警戒を強めている。万が一にも市民を巻き添えにする事件を発生させてはならない。当局は動向を厳しく監視し、取り締まりを徹底してもらいたい。
 新組織には前組長の出身母体である山健組(神戸)など十数団体が入る可能性が高い。背景には6代目組長の出身母体・弘道会(名古屋)主導の運営への反発があるとされる。あつれきに加え、同じ「山口組」を名乗る以上、何らかの衝突は必至と見るべきだ。
 昨年末時点での山口組構成員は約1万人だ。新組織の規模は不明だが、3千人に及ぶ可能性もある。前例のない大規模な抗争になってもおかしくない。徹底した取り締まりが求められるゆえんだ。
 山口組分裂と言えば30年前の「山一抗争」を思い出す。跡目相続をめぐって対立し、分離した一和会が四代目組長を射殺した。以後300件超の事件が発生、双方の組織から計25人の死者を出した。
 より悪質だったのは1990年に沖縄で発生した三代目旭琉会と沖縄旭琉会の抗争である。こちらは警察官と高校生の計3人までもが巻き添えで犠牲になったからだ。
 暴力団対策法制定のきっかけにもなったこの両旭琉会の抗争は、山口組と関係を強めるか否かで対立が深まった結果とされる。山口組の「引力」が引き金になったのだとすれば、今回の分裂でも似たような事態が発生しかねない。
 懸念の根拠は他にもある。2002年には山口組直系団体だった中野会の副会長が那覇市内で射殺された。中野会は、97年に発生した山口組ナンバー2の宅見組組長射殺の実行犯がいた組織で、当時、山口組とは別組織となっていた。
 山口組の抗争が沖縄で発生したのである。しかも白昼、自動車での追跡劇の末、国道で発砲した事件だ。市民が巻き添えになる可能性は十分あった。
 暴対法改正で組長の使用者責任が厳格化した上、暴力団排除条例の施行で暴力団は糧道を断たれつつある。構成員数は年々大幅減だ。分裂は、全国の暴力団の4割以上を占める山口組を解体に追い込む好機でもある。取り締まりとともに脱退も強力に促進してほしい。