<社説>高齢者施設虐待 未然に防ぐ仕組み必要だ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 あってはならない事件が発生した。

 川崎市の介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で、入所している女性(86)がことし6月、職員に頭をたたかれたり暴言を吐かれたりするなどの虐待を受けていた。
 川崎市が改善策の報告を求めたことは当然だ。人生の終末期を迎えた高齢者の尊厳を踏みにじるような行為は決して許されない。刑事告発も含め、原因究明と改善策の提示が急務だ。
 同時に、虐待は全国の施設で発生しているという調査結果がある。行政による高齢者施設の実態把握など、虐待を未然に防ぐ仕組みづくりが求められる。
 今回の虐待は、女性が暴力を受けていることを長男が施設側に訴えたにもかかわらず、改善されなかったため隠したカメラで撮影し発覚した。撮影された映像には、職員が女性を抱え上げ、投げるようにしてベッドの上に移動させる場面もあった。
 虐待には拘束など身体的虐待、暴言などの心理的虐待、介護放棄、経済的虐待がある。
 厚生労働省はことし2月、特別養護老人ホームなど介護施設の職員による高齢者への虐待が2013年度に221件あったと発表した。12年度に比べ66件(42・6%)増え、過去最多を更新した。被害者402人のうち84・8%を認知症の人が占めた。沖縄県内で介護施設従事者による虐待は2施設あった。
 厚労省は、徘徊(はいかい)や妄想といった認知症特有の症状について施設の職員に十分な知識がないことが、虐待につながったと分析している。職員研修などを通して意識改革が必要ではないか。
 一方、NPO法人「全国抑制廃止研究会」(東京)の調査(4月)によると、全国の介護施設など高齢者が入る施設のうち、職員数が「不十分」とした施設で虐待が「あった」もしくは「あったと思う」と回答したのは23%だった。人手不足が虐待の背景にあるとみられる。人手不足解消に向け、介護担当者の待遇改善や、職務の加重負担によるストレスを取り除く工夫が必要だ。
 2006年に高齢者虐待防止法が施行され、入所者を守る制度が整いつつあるが、まだ不十分だ。誰もが老い、いつか施設を利用するかもしれない。高齢者を守る環境が整わなければ、安心して入所できない。