<社説>司法試験漏えい 公平性図り再発防止を


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 司法試験の根幹を揺るがす事態が起きた。ことし5月の司法試験で考査委員を務めていた明治大法科大学院教授が教え子の受験生に試験問題や論文答案例などを漏らしていた疑いが持たれている。2人は漏えいを認めている。司法試験の信頼を失墜させた責任は重大だ。

 明治大学はこの教授の懲戒免職処分を決め、司法試験委員会の告発を受けた東京地検特捜部は国家公務員法(守秘義務)違反の疑いで捜査を始めた。法律を扱う専門職の法曹資格を得るための司法試験で、法に触れる不正が発覚した。由々しき問題だ。厳正に対処してほしい。
 司法試験の考査委員は非常勤の国家公務員で、法相が法科大学院教授や裁判官などから毎年任命する。漏えいの疑いが持たれている教授は憲法分野で問題を作成する考査委員を務め、同分野の委員13人を取りまとめる主査という立場だった。責任者が試験問題を漏えいしていたのでは、考査委員の制度そのものに問題があるとしか思えない。
 大学教員が問題作成者を兼ねることについては以前から危惧する声が出ていた。2007年には考査委員だった当時の慶応大法科大学院の教授が試験前に答案練習会を開き、類似の論点を学生に教えていたことが発覚し、強い批判を浴びた。
 このため考査委員から教員を外すべきだとの意見が相次いだ。しかし法務省は問題作成に関わる教員の数を減らすだけにとどめ、抜本的な改善には乗り出さなかった。教員の考査委員には最終学年の法科大学院生や修了生を指導しないことや、受験生に出題の論点、題材について示唆を与えないことを求める順守事項を定めている。しかし違反しても罰則はない。本人のモラルに任せたこうした対応が今回の事態を引き起こしたといっても過言ではない。
 法務省は今後ワーキングチームを設置し、再発防止策を検討する。焦点となるのは教員を問題作成に関与させるかだ。教員の倫理観に依存した制度のもろさが露呈した以上、教員を除外する必要があるとの意見がある。一方で最新の学説を出題に反映するためには教員を完全に排除すべきではないとの声もある。
 いずれにしても法務省は司法試験の公平性を取り戻すためにも、国民が納得できる抜本的な再発防止策を示すべきだ。