<社説>軽減税率 給付金は公約違反だ


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 公約に反する。消費者を軽視した詐術のような対応だ。
 安倍政権は生活必需品の消費税率を低く抑える軽減税率を導入せず、所得の低い人に給付金を支給する案を検討している。麻生太郎財務相は「複数の税率を入れるのは面倒くさい」と述べ、軽減税率導入に否定的な考えを示している。

 自民、公明両党は軽減税率導入を目指すことで合意し、2014年12月の衆院選でも公約に掲げた。給付金支給案は公約違反である。
 導入を強く求めてきた公明党内の会合で、地方組織の代表から「公約違反だ」という声が噴き出した。当然のことだ。低所得者対策の柱である軽減税率はできるだけ早く導入すべきである。
 財務省が打ち出した案は、消費税率を8%から2017年4月に10%に引き上げる際の軽減税率の導入を見送り、代わりに増税分を後から還付するものだ。酒を除き、外食を含めた飲食料品に一律10%を課し、2%分を還付する。
 還付額は低所得層の1人当たり年平均食費20万円の2%に当たる年4千円程度を上限にするという。
 増税となれば、低所得者ほど負担感が重くなる。食料品など生活必需品の税率を低く抑える軽減税率は緩和策として実効性がある。
 「日本型軽減税率制度」と名が付いているが、購入時に10%の税金を支払う消費者の負担感は軽くならず、買い控えが起きかねない。軽減税率と称するには無理がある。
 還付金を受けるにはネットを介した複雑な手続きを要し、高齢者には使いづらい。景気の浮き沈みにも作用する重大懸案である。軽減税率を導入した国は多くあるのに、なぜできないのか。「面倒くさい」は身勝手な役所の論理だ。
 一方、対象となる食料品の線引きが難しく、複数の税率が混在することで事業者側の事務が煩雑になり、経費もかさむ。こうした課題を回避するのが給付金案の狙いだが、国民の理解は得られまい。
 来年1月に運用が始まるマイナンバーを活用し、個人カードを提示して購入額を記録する案も浮上している。事業者はカード読み取り機を設置せねばならず、時間と経費がかかる。
 マイナンバー制度には、個人情報流出の懸念が付きまとい、国民の批判が根強い。強引に制度普及を図る意図も読み取れる。
 そもそも国民に痛みを強いる10%への増税も見直すべきなのだ。