<社説>安保法案攻防 成立強行は許されない


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 抗議の人が議事堂を取り巻く光景を見ても、国会内の紛糾を見ても、今が採決にふさわしいときとはどうしても思えない。

 安全保障法制をめぐる国会での与野党の攻防が大詰めを迎えている。野党は衆院で内閣不信任案、参院で特別委委員長の問責決議案を連発し、審議の引き延ばしを図っているが、与党はあくまで強行採決の構えだ。
 しかし、肝心な国民の意見は賛同には程遠い。世論調査は、実施するたびにむしろ成立反対が増えている。国会前抗議の波や全国各地のデモは引きも切らない。政府答弁も二転三転し、定まらないありさまだった。審議を尽くしたとは到底言えない。そもそも憲法学者の大多数も元内閣法制局長官も元最高裁判事も、そろって違憲性を指摘する法案だ。このまま成立を強行するのは許されない。
 直前総選挙での勝利を根拠に、数の力で押し切ることを自民党は正当化している。だがその際の自民党の政策集では26ページ中、安全保障法制はわずか数行にすぎない。参院の公聴会で学生団体「SEALDs(シールズ)」の奥田愛基さんが述べたように、「国民投票もせず、解釈で改憲するような、違憲で法的安定性もない、国会答弁もきちんとできないような法案をつくるなど、私たちは聞かされていない」のである。
 与党は、次世代の党や日本を元気にする会、新党改革の野党3党が賛成に回ったことで「強行採決ではない」とも強弁する。
 だがその合意は法案の修正ではない。「自衛隊を派遣する際に国会の関与を強める」ため、付帯決議と閣議決定を行うとするものだ。付帯決議に拘束力はない。国会の関与を強めるなら、法案に書き込むのが筋だ。閣議決定と言うが、そもそも歴代政権が踏襲した見解を事もなげに覆し、解釈改憲をしたのが今の内閣である。閣議決定にどんな歯止めがあるのか。
 慎重審議を求める声を無視するならもはや民主主義国ではない。内閣の恣意(しい)で解釈改憲できるのなら立憲主義でもない。他国で軍事力を使えるようにするのだから平和国家でもない。
 もはや思想家の内田樹氏が評するように、スハルト大統領当時のインドネシア、マルコス大統領時のフィリピンに並んで、日本も「晴れて開発独裁国家の殿堂入り」である。成立を許してみすみすそんな国にしてはならない。