<社説>知事国連演説 政府は重く受け止めよ 国際社会へ訴え継続を


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 沖縄の人々の自己決定権がないがしろにされている-。冒頭の言葉に全てが集約されている。沖縄の県知事が国連の場に出向いてでも訴えざるを得なかった現実を、政府は深刻に受け止めるべきだ。

 翁長雄志知事がスイスのジュネーブで開かれている国連人権理事会で演説した。沖縄に米軍基地が集中し、基地問題が県民生活に大きな影響を与える中、選挙で何度も示された民意に反して新基地建設が強行されようとしている実態を説明した。戦後70年たっても続く沖縄の不条理を知事自らが国連で訴えたのは画期的だ。

基地問題の原点

 翁長知事が演説で強調したのは「沖縄の米軍基地は第2次大戦後、米軍に強制接収されてできた。沖縄が自ら望んで土地を提供したものではない」という点だ。
 沖縄戦後、米軍は住民を収容所に集め、その間に基地を造った。1950年代には基地拡張のため「銃剣とブルドーザー」で強制的に住民の土地を取り上げた。占領下での民間地奪取を禁ずるハーグ陸戦条約に違反する非人道的な手法であり、沖縄の基地は人権や自己決定権が踏みにじられる中で形成された歴史的事実がある。
 ところが現在でも米軍普天間飛行場の移設計画で同じことが繰り返されようとしている。これに関し翁長知事は「自国民の自由、平等、人権、民主主義を守れない国がどうして世界の国々と価値観を共有できるのか」と突き、新基地建設阻止に向けた決意を示した。
 国連人権理事会は、加盟国の人権状況を監視し改善を促すため、2006年6月に発足した国連総会の下部機関だ。年3回以上会合が開かれ、今回はシリアや北朝鮮の人権問題、欧州に流入する難民問題などが議論されている。
 各国政府や非政府組織(NGO)の報告が続く中、翁長知事の演説は約2分だったが、短い時間で基地問題の原点と現状を的確に伝えられたのではないか。
 聴衆からは「沖縄の悲惨さに驚きと同情を禁じ得ない」(在ジュネーブのエジプト人作家)、「沖縄県民とは痛みと不幸を分かち合うことができる」(日本の戦争責任を問うオランダの財団幹部)といった声が上がった。
 戦後70年の節目に、日米安保体制下で基地押し付けの構造的差別にあえいできた沖縄の知事が、国際世論にその不正義性と理不尽さを訴えた意義は非常に大きい。

必然性乏しい新基地

 翁長知事の演説に対し、日本政府は会場から反論した。発言したジュネーブ国際機関政府代表部の嘉治美佐子大使は「日本の国家安全保障は最優先の課題だ。辺野古移設計画は合法的に進められている」などと主張した。
 基地形成の歴史や自己決定権侵害に対する翁長知事の問いに、直接答えたものとは言えない。
 政府は「人権問題の場で辺野古移設はなかなか理解されない」(菅義偉官房長官)と知事をけん制したが、沖縄の基地問題は優れて人権問題であることは明白だ。「移設計画が合法的」というが、公約に反して埋め立てを承認した前知事が選挙で大敗した結果を無視し、計画を強行すること自体が民主主義に反する行為である。
 中国のミサイル射程内にある沖縄での海兵隊基地の新設には、米知日派の重鎮らでさえ疑問の声を上げる。だが新基地の必然性に対するこうした指摘を、政府はまともに取り合ってこなかった。
 だからこそ翁長知事は国連に行かざるを得なかったのだ。政府は知事の演説を今こそ正面から受け止めるべきだ。現行移設計画に固執するようなら国際世論からも厳しい批判が向けられよう。日本と歩調を合わせ「辺野古が唯一」と繰り返す米政府も同様だ。
 演説で知事は「世界中から関心を持って見てください」と呼び掛けた。歴史を刻んだ今回の成果を踏まえ、今後は日米両政府との粘り強い協議と並行し、国際世論への継続的な発信も求められよう。