<社説>介護事業者倒産 当事者視点での支援を


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 4月に介護報酬が引き下げられた際、事業者から「サービスの質が低下する」と懸念が出された。実際に引き下げられた今、「質の低下」どころではなくなった。地域によって「サービス」そのものが受けられない可能性が出ている。

 信用調査会社・東京商工リサーチの調査によると、ことし1~8月の介護サービス事業者の倒産件数(負債額1千万円以上)が前年1年間を上回る55件に達した。2000年の介護保険制度開始以来、最多となり、年間ではさらに増えるだろう。
 倒産の影響で、一部の無届け有料老人ホームは入所者が転居を余儀なくされた。廃止・統合された事業所も出ている。
 倒産の背景には、介護報酬引き下げによる収入の低下、景気回復で他業種に人材が流れたことによる人手不足があるとされる。
 倒産した事業者の内訳を見ると、55件のうち従業員5人未満が37件だった。サービス種別では通所・短期入所が23件で最多だ。
 介護報酬は全体平均で2・27%引き下げられたが、小規模型通所介護(デイサービス)事業に限れば、マイナス9・2%と下げ幅が大きかった。報酬改定が小規模デイサービス事業者の経営を直撃したことがうかがえる。
 厚生労働省は介護報酬改定に当たり、人材確保のために介護職員の賃金が月平均1万2千円上がる「処遇改善加算」も拡充した。
 しかし介護報酬引き下げによる事業本体の収入減、それに伴う人件費抑制が離職を招いたといえる。これらが重なり事業所閉鎖に至るという負の連鎖は、政府が引き起こした事態と言わざるを得ない。
 それによって最も被害を受けるのは、介護を必要とする当事者とその家族だ。
 厚労省の人口推計では65歳以上の高齢者は人数、割合とも過去最高を更新した。超高齢社会に入った日本で介護は国民的な課題だ。
 現在の政策は小規模事業者に厳しく、経営面で優位にある大規模事業者にサービスを集約しようとしているように見える。しかし施設の整った大規模事業者のサービスだけでなく、住み慣れた地域に根付き、個々人に合わせたサービスを提供するような小規模事業所が選べる多様性も必要だ。国は社会保障費抑制の視点だけでなく、介護を受ける当事者の立場から、小規模事業所支援などの施策を打ち出すべきだ。