<社説>久辺3区新交付金 名護市を通すのが筋だ


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 新基地建設現場に近い名護市の辺野古、久志、豊原(久辺3区)を対象に、政府が新たな枠組みの交付金創設を検討している。新交付金は名護市を介さず久辺3区に直接支出する方向で調整している。

 名護市の頭越しに支出することは地方自治への介入であり、許されるものではない。加えて言えば、国策に反対する自治体は不要との意思表明にほかならない。極めて危険な考えであり、断じて容認できない。
 地域の課題は自治体が責任を持って解決すべきものである。財政事情で即座に対応できない場合は、自治体と地域が知恵を絞り一つ一つ前進させていく。それが地方自治の在り方である。政府は県と共に市町村を積極的に後押しすることが求められているのである。
 政府は基地問題と切り離し、名護市を通して均衡の取れた地域振興に協力するのが筋である。
 政府が交付金を直接支出することが常態化すればどうなるか。
 自治体が蚊帳の外に置かれることで、住民は自治体の果たす役割を実感できなくなる。自治体の構成員としての意識も希薄になっていく。それが積み重なると、地方自治は崩壊の危機に瀕(ひん)する危険性がある。
 米国の政治学者ロバート・パットナムは、人々の結び付き、いわゆるソーシャル・キャピタル(社会関係資本)が行政の統治効果を左右することを実証した。人々に信頼関係があり、協調行動が多彩な地域は、そうでない地域より、同じ政策を実施しても効果が上がるというのである。
 新交付金によって名護市は地域が分断されることが危惧される。パットナム理論からすれば、名護市民の一体感が損なわれることで政策効果は低減し、地域が疲弊する恐れが生じるのである。
 久辺3区関係者からは歓迎する声が上がっている。住民集会所の改修などが一気に進むことへの期待の表れだろう。だが本来、これらの事業は基地とは関係なく実施されるべきものだ。
 新基地が建設されて運用が始まれば、その影響は県全体に及ぶ。建設地域だけの問題ではないのである。だからこそ、県民は知事選など一連の選挙を通して新基地建設反対の意思を示したのである。
 政府がやるべきことは禁じ手の新交付金創設などではない。新基地建設計画を撤回することである。