<社説>政府の反論 やるべきは米国との協議だ


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 翁長雄志知事の国連演説への反論に政府が躍起になっている。基地負担軽減に対する自らの責任に目を背けてはいないか。

 菅義偉官房長官は会見で、知事が国連人権理事会で米軍普天間飛行場の移設計画をめぐり政府を批判したことに「人権理事会で米軍基地をめぐる問題が扱われたことには強い違和感を持っている」と語った。基地問題が国連の場で持ち出されたことが面白くないのだろう。
 基地問題が優れて人権問題であることは歴史的にも明白だ。「銃剣とブルドーザー」と形容されたように沖縄の基地は住民の土地を強制的に取り上げて造られた。
 戦後70年たっても基地の過重負担は続き、米軍関連の事件・事故や環境問題が県民生活に大きな影響を与え、そして選挙結果を無視して新基地が建設されようとしている。知事が指摘したように、人々の自己決定権や人権がないがしろにされている現状は否定できまい。
 だが国連人権理事会で、ジュネーブ国際機関政府代表部の嘉治美佐子大使は「日本政府は米政府と共に沖縄の負担軽減に努めている。経済振興にも力を注いでいる」などと知事の演説に反論した。
 沖縄の理不尽な現状を国連で知事が訴えたことに対する政府側の狼狽(ろうばい)がうかがえるが、発言にはそれこそ「強い違和感」を覚える。
 基地問題をめぐる議論に際し、「経済振興への注力」を強調する見識をまず疑う。そもそも基地と振興のリンクを否定してきた従来の政府説明とも矛盾しよう。
 嘉治氏は負担軽減の実績に米軍西普天間住宅地区(51ヘクタール)の返還を挙げたが、県内の米軍基地面積の0・2%にすぎない。19年前に日米特別行動委員会(SACO)が合意した約5千ヘクタールの返還計画のうち実現したのは1割弱程度であり、「実績」を強調するのはおかしい。
 辺野古移設に関して嘉治氏は、抑止力を維持する上で必要だと主張した。だが中国のミサイル射程内にある沖縄での海兵隊基地の新設には、米国の知日派重鎮などからも疑問の声が上がる。辺野古が唯一と繰り返しても説得力に乏しい。
 何より翁長知事が国連に出向いたのは政府が沖縄の声に耳を傾けないからであり、そのことを謙虚に受け止めるべきだ。政府がなすべきは沖縄への反論ではなく、新基地計画見直しに向けた米国との真摯(しんし)な議論の開始であるはずだ。