<社説>新国立競技場問題 国民への説明責任果たせ


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 2020年東京五輪のメーンスタジアムとなる新国立競技場の総工費が膨張し、旧整備計画が白紙撤回に追い込まれた問題に関し、下村博文文部科学相は「国民に心配と迷惑を掛けた」として安倍晋三首相に閣僚辞任を申し入れた。

 首相は「辞任には値しないが、重く受け止めたい。内閣改造までは務めてほしい」と指示、10月上旬の内閣改造での交代を検討しているという。
 メーンスタジアム建設の迷走は国際的なイメージダウンを招き、国民の期待感を失わせた。「事実上の引責辞任」という形では納得できない。責任の取り方が不明瞭だ。
 新国立競技場の旧計画を検証した文部科学省第三者委員会の報告で指摘されるまで判断を先送りにしたのは「自分に責任があると思っていないからだ」と言われても仕方あるまい。本来なら首相が7月に建設計画を白紙撤回した際、辞任を申し出るべきだった。
 計画に関わった責任者は報告を真摯(しんし)に受け止め「なぜ悪かったのか」を国民に明らかにし、謝罪した上で直ちに引責辞任すべきだ。
 第三者委報告では「国家プロジェクト」と言いながら、責任や権限の役割分担が曖昧でお粗末としか言いようがない実態を示し、事業主体である日本スポーツ振興センター(JSC)の河野一郎理事長や所管の文科相の責任を指摘した。
 森喜朗元首相らで構成するJSCの有識者会議については「重鎮ぞろいで実質的に重要事項の承認機関となっていた。JSCの意思決定を遅らせた」と問題視しているが、会議の議論をリードした森氏やスポーツ議員連盟幹事長の遠藤利明五輪担当相には聞き取り調査をしていない。身内に甘い調査との批判は免れまい。報告は全体にわたり形式的な指摘にとどまり、「生煮え」の印象が否めない。事業プロセスの「不透明な構図」をもっと浮き彫りにすべきだった。
 新計画でも関係閣僚会議、内閣官房推進室など関係する機関は多く、責任や権限の曖昧さは残る。今回の検証結果を現在進行している新国立競技場建設に生かすのならば、専門的知見とマネジメント力、強い指導力を備えた責任者が必要だ。
 「どんな五輪を目指し、そのためにどんな施設が必要か」という理念を国民に明確に示し、東京五輪に向けた準備をより加速させるべきだ。これ以上、時間とお金を無駄にすることは許されない。