<社説>新「三本の矢」 アベノミクスの反省が先だ


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 安倍晋三首相が経済政策の新たな「三本の矢」として「強い経済」「子育て支援」「社会保障」を掲げ、その実現に全力で取り組む考えを表明した。国民生活に直結する政策だが、実現可能性に疑問符の付くものがほとんどである。言葉だけが躍っている感は否めない。

 例えば「国内総生産(GDP)600兆円実現」である。達成には名目3%超の経済成長率達成が必要となる。名目3%超達成はバブル末期の1991年度が最後である。中国経済の成長鈍化など、日本経済を取り巻く環境は先行き不透明な状況にもある。
 政府は10月中旬にも始める経済界との官民対話をテコに経済成長を促し、さらに「1億総活躍プラン」をつくって後押しするというが、説得力に欠ける。
 「介護離職ゼロ」の実現もハードルが高い。家族の介護を理由に仕事を辞める介護離職は年間約10万人に上る。首相はその対策として、介護人材の育成を進める方針を打ち出した。
 だが介護職は低賃金で重労働とのイメージが強く、人手不足が慢性化している。人材育成だけでは不十分である。介護職の大幅な賃金増など待遇改善を図らなければ「離職ゼロ」はおぼつかない。
 首相は「出生率1・8」の数値目標を提示し、子育て支援の充実で「少子化の流れに終止符を打つことができる」とした。だが、具体策として挙げたのは待機児童解消や三世代同居の支援、若者の結婚支援など、これまで取り組んできた政策ばかりである。実効性ある新たな具体策を提示すべきだ。
 経済再生や社会保障の充実などに向けた政策は国民生活に大きく影響する。にもかかわらず政策を具体的に実現させる中身が伴っていないのはなぜか。
 その理由は来夏の参院選で安保法制の争点化を避けることに重点を置き、経済政策を支持率アップに利用する首相の姿勢にある。
 国民の目先を変えるために実現性の低い経済政策を提示することは、不誠実極まりない。首相は国民を第一に考え、経済政策を練り直すべきだ。
 首相は「アベノミクスは第2ステージへ移る」と述べたが、地方はその成果を実感できていない。まずは第1ステージを客観的に総括する必要がある。その反省を生かさない限り、新「三本の矢」は画餅になる。