<社説>環境補足協定 外交の「欠落」は救い難い


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 通常、外交交渉をすれば何らかの成果があるものだ。だが今回は実質的な進展が全く存在しない。日本外交の拙さが指摘されて久しいが、成果が無いのだから、もはや外交は拙劣という水準ではなく、欠落していると言っていい。

 日米両政府は在日米軍基地の現地調査に関する環境補足協定を締結した。日米地位協定締結から55年たって初めて結べた補足協定で、「歴史的意義を有する」(菅義偉官房長官)と日本政府は胸を張る。しかし胸を張るような内容か。
 自治体の立ち入り調査をめぐっては、2000年の日米合同委で既に今回とほぼ同じ合意を交わしている。だが米側は日本側の立ち入り調査の要請に対し「妥当な考慮を払う」だけで、いくらでも拒否できる仕組みになっている。
 だから、米側が立ち入りを拒否した例は10回以上ある。今回の辺野古新基地建設で、サンゴ破壊をめぐる県の立ち入りをずっと拒み続けたのも記憶に新しい。
 米側に裁量権を与えず、立ち入りを自動的に認める仕組みにしない限り、問題は解決しないのだ。「要請があれば、米国は速やかに認めるものとする」などと書くべきだった。米側に拒否権を認めた合意など絵に描いた餅にすぎないのは、過去の経験が示している。
 だが今回の協定も米側は「考慮を払う」だけだ。立ち入りを認める義務はない。そもそも相手の要請を考慮するのは社会の常識である。これで「歴史的」とはまさに噴飯物だ。過去から教訓をくまず、機能しない合意を繰り返すのは、救い難い外交無策と言うほかない。
 現状の理不尽ぶりは他国と比べれば分かる。ドイツの米軍基地をめぐり米独はボン補足協定を戦後3回改定した。だからドイツの自治体は予告なしで立ち入りできる。日本では米軍基地内は治外法権だが、ドイツでは米軍にドイツ国内法順守の義務がある。環境汚染も日本では日本政府が浄化を肩代わりするのに対し、ドイツでは米軍が浄化義務を負う。韓国も、汚染があれば自治体が米軍と共同調査を実施できる。
 日本が他国並みですら実現できないのは理由がある。基地内は米国が全権を持ち、日本側が一切口出しできないという、他国ではあり得ない「排他的管理権」を日米地位協定で定めているからだ。地位協定の本体を改定しない限り、日本は主権国家ですらない。