<社説>VWの規制逃れ 刑事責任追及し再発防止を


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 世界屈指の自動車メーカーであるフォルクスワーゲン(VW)が送り出した「クリーンディーゼル車」は偽りだった。

 VWは米国の排ガス規制を不正にクリアしていた。消費者と地球環境に対する罪深い行為である。世界で1100万台が対象となる空前の不祥事である。
 VWはディーゼルエンジン車に違法なソフトウエアを搭載し、走行試験時に排ガス浄化機能がフル稼働して環境汚染物質を抑えた。一方、市販車の通常走行時には抑制力が弱まり、汚染物質が基準値を超えている。
 ハイブリッドカーなどのエコカー開発が遅れたVWは他の自動車メーカーとの差別化を図り、窒素酸化物(NOx)など有害物質の排出を抑えたクリーンディーゼル車を開発した。環境性能と低燃費をPRし、欧州で売り上げを伸ばした。
 販売が伸び悩んでいた米国に攻勢をかけたが、米国の排ガス規制基準は欧州よりも厳しい。NOxの排出を減らすと燃費が悪くなる問題が生じ、VWは不正を働いた。
 通常走行時は基準の最大40倍にも当たるNOxを出しているとの分析もある。有害な排ガスの大量排出は健康被害にもつながる。「環境に優しい車を」と、クリーンディーゼル車を買った消費者の信頼を根底から裏切る卑劣な行為であると言わざるを得ない。
 販売台数至上主義に陥り、環境を軽視した世界企業の暴走の責任は重い。
 VWの経営トップのウィンターコルン会長が辞任したのは当然だ。米独仏の司法当局が立件を視野に捜査に着手した。ソフトを納入した企業が2007年に違法性を警告する文書を発し、11年には社内からも告発があったが、規制逃れに歯止めはかからなかった。
 いつから、誰が指示し、組織ぐるみの不正に手を染めたのか。不正を徹底的に暴き、刑事責任を取らせて再発防止につなげるべきだ。
 他の有力メーカーにも同様の疑惑が浮上し、米独の両政府はVW以外も調査する方針を示している。スイスは5日から疑惑の車種の販売を禁止する措置に踏み切る。
 世界で車の環境性能が重視される中、刷新されたVW経営陣は自浄能力を発揮し、歴代経営陣の関与を含めうみを出し尽くすべきだ。
再発防止の徹底による消費者の信頼回復がなければ、トヨタと世界トップを争うVWの復権はない。