<社説>TPP大筋合意 農業に深刻な打撃 国会承認は許されない

 環太平洋連携協定(TPP)交渉で参加12カ国が大筋合意した。

 日本が求めたコメなど重要5品目は関税撤廃の例外とされたが、譲歩を重ねたため骨抜きにされた。米国産などのコメを無関税で輸入する枠を新設し、牛・豚肉の関税も大幅に下げるのである。
 安倍晋三首相は「約束はしっかり守ることができた」と述べたが、強弁にも程がある。「約束」が果たせたとは到底認められない。
 農業の保護を求めた国会決議にも明らかに反する。国会は決議した責任を果たすべきだ。各方面への悪影響が排除できない以上、協定を承認することは許されない。

「食の安全」に懸念

 協定が発効すれば、国内総生産(GDP)で世界の4割を占める巨大経済圏が誕生する。日本にとっては工業製品の輸出拡大が期待される。その一方で、輸入農産品の関税引き下げによって国内農業は深刻な打撃を受ける。極めて不均衡な協定である。
 政府は輸入米約7万8400トン分の国産米を政府備蓄米として国内農家から買い入れ、米価の下落を抑える方針である。しかし、これがコメ農家の支えになるかは不透明である。
 そもそもコメの消費量は毎年約8万トン減り続けているのである。買い入れ量は年間減少分とほぼ同じである。供給が需要を上回る状況の中、米国産とオーストラリア産のコメを無関税で輸入することはどう考えても不合理だ。
 輸入農産物に対抗するため価格を下げれば、農家の収入は減る。離農の引き金になりかねない。そうなれば、食料自給率の低下を招くことは目に見えている。
 貿易相手国が異常気象に見舞われ、農産物の輸入が滞る事態もあり得る。輸出国で家畜の疫病が発生すれば、日本にも影響が出よう。国内農業を守らねばならない理由の一つはそこにある。
 牛・豚肉は輸入が大幅に増えた場合、関税を引き上げる緊急輸入制限措置(セーフガード)を設けた。だが段階的に縮小されることになっている。セーフガードは恒久的なものではないのである。これのどこが「約束はしっかり守った」といえるのか。
 首相はTPP交渉への参加を表明した際、「食を守ることを約束する」と言明していた。交渉が秘密裏に進められたため、消費者の関心が高い「食の安全・安心」が守られるのかの懸念は払拭(ふっしょく)されていない。協定を発効させるわけにはいかない。

米国追従の表れ

 首相は農業について「政府全体で国内対策を取りまとめ、万全の措置を講じていく」としている。
 1993年の多角的貿易交渉「ウルグアイ・ラウンド」合意後、政府は約6兆円で対策を実施したが、競争力強化に結び付かなかった。政府はその後も農業振興を掲げたが、離農と耕作放棄地は増えているのである。今回も期待はできない。
 付加価値の高い農産物を作って輸出を拡大せよと政府に言われても、高齢化が進む農業にあって全ての農家が取り組めるわけではない。零細農家は切り捨てられることにならないか。
 農業の振興策は、TPPとは別にまとめるべきものである。大筋合意後に、全閣僚をメンバーとした「TPP総合対策本部」を設置し、農業分野などの国内対応を取りまとめても、小手先の対応になる可能性が高い。
 民主党政権下で自民党は交渉参加に反対していた。2012年衆院選で「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り」の条件付き反対に変わり、政権復帰後は交渉参加に前のめりとなった。変遷したのは、首相が日米同盟強化を第一に考えた結果だろう。
 TPPへの参加は米国が求めていた。安保法制同様に米国追従の表れである。国内農業と消費者をその犠牲にすることは許されるものではない。